棋王戦 震災で妻を失った愛好家の駒を使って… 藤井八冠が言葉を選んで語った感想とは
藤井聡太八冠(21)に伊藤匠七段(21)が挑む将棋の棋王戦五番勝負(主催・共同通信社)の第2局が、2月23日、石川県金沢市の北國新聞会館で行われ、連覇を狙う藤井が94手で快勝した。第1局は双方の玉が相手陣に入玉した状態で詰ませる見込みがなくなった「持将棋」で引き分けたため、これで対戦成績は藤井の1勝1分けとなった。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
【写真】使用された「清定」の駒。「歩」の文字の最後の画が下に長く伸びる独特の書体
序盤は超ハイペース
先手は伊藤。藤井から角を交換し、「角換わり腰かけ銀」の戦いとなる。互いに事前の研究通りになったのか、午前中は最初の1時間半で60手も進む超ハイペース。しかし、67手目に伊藤が「4一」に飛車を打つと、藤井が1時間半の大長考に入り、そのまま昼休憩となった。
美味しそうな加賀御前の昼食を平らげた2人は、再び対局室へ。藤井が「8六歩」と指すと、今度は69手目「9一飛成」に伊藤が68分を費やすなどした。
伊藤は攻めの機会を狙っていた最下段の飛車を、藤井の巧みな切り返しで守りに回さなくてはならなくなるなど次第に不利な展開に。終盤、藤井が角2枚、伊藤が飛車2枚を持つ形となり、藤井の角は有効に働いたが、伊藤の9筋の竜は働きが悪かった。藤井が「8六」に桂馬を打つと、午後6時28分に伊藤が投了した。
快勝した藤井は「途中から攻め込まれて受ける展開になって。基本的には玉薄いので、自信がないかなとは思ったんですけど。(中略)竜を押さえ込んで、こちら(後手)が多少受けが利く形になったので、少し前の局面と比べると流れはいいのかなとは思っていた」と話した。
解説者でも「わからない」
伊藤は「先手『7三歩成(59手目)』から先手『8二銀(61手目)』と踏み込んでいったのがまずかったです。(中略)午前中から誤算があって、ずっと苦しい将棋でした」と振り返った。ABEMAで解説した星野良生五段(35)は「あのあたりで早くも劣勢と思っていたとは意外でした」と話した。
交代で解説を担当した星野五段と同じく西村一義九段(82)門下の藤井猛九段(53)は、終盤に伊藤の竜による王手を藤井が「7二銀」で受けた手について、「伊藤七段の竜に(取られるかもしれないという)プレッシャーをかけている」と解説。解説の通り伊藤の竜が暴れることはなかった。藤井猛九段は「攻守を睨んだ『5五角』で藤井陣が崩れなくなった。さらに『6三桂馬』がいい手だった」と分析した。
この一局、藤井猛九段が「これは私にはわかりません。専門家の人に訊いてください」と語る場面が2度あった。一世を風靡した新戦法「藤井システム」を編み出し、竜王3連覇のタイトル歴を持つ藤井猛九段は、専門家ではないのだろうかと首をかしげてしまったが、それほどに難しい将棋だったのだろう。「岡目八目」で解説者が対局者より冷静に俯瞰して観察できることはあるだろうが、解説者がすべてを見通せるというわけではない。その意味でも「わからない」と正直に語っているのが興味深かった。
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