「セクシー田中さん」原作者を追い詰めたSNSの“安直な正義感” 当事者以外が善悪をジャッジする危険性

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「クセを持った道具」

 さらに小木曽氏はこうも言う。

「この問題には登場人物がたくさんいて、相当なボタンの掛け違いがあったのは間違いありませんが、表に出ていない事実もあるはずで、 当事者ではない人たちが善悪をジャッジするのは非常に危険だということ、この点をしっかり理解する必要があります。臆測に基づく騒動で芦原さんが亡くなった可能性を考えれば、不測の事態の『連鎖』という、もっと最悪の事態も想像できるはずです。“いったん立ち止まろう”という気持ちにもなれると思うのですが……」

 日常生活に置き換えても、訳知り顔で物事を語ったり、事情も知らないまま罵詈雑言を叫ぶ人物がいれば、周囲から距離を置かれるだけだろう。

「ネット空間において誹謗中傷や過激なコメントをする人は、世の中のごく一部で、大多数の人はそれらに同意しておらず、だからと言って反論することもなく、普通はただ黙って見ているだけです。でも、そうした大多数の人はネットの世界では姿が見えないので『存在しない』ことになってしまう。すると、あたかもネット全体が怒りや批判に満ちているように見えて、極端な考えが“主流派”であるかのような錯覚に陥ってしまうわけです」

 むしろネットやSNSはそういう「クセを持った道具」なのだと冷静に見守ることが肝要だとして、小木曽氏はこう続ける。

「日常で一線を越えたら罰が科されるのと同じように、ネットでもやってはいけないことは一緒なのです。匿名のアカウントでも、一線を越えた誹謗中傷を投稿すれば、最終的に身元が特定されます。『自分はこの投稿を自宅玄関に張れるだろうか』とぜひ読み返してほしいです。それがネットに投稿できる適切な内容の『判断基準』だと考えてもらえればと思います」

SNS運営側の問題

 ネット空間における誹謗中傷が社会問題化したのは、2020年に女子プロレスラーの木村花さんが22歳の若さで亡くなった事件の影響が大きい。恋愛リアリティー番組「テラスハウス」(フジテレビ系)に出演していた彼女は、SNSなどで誹謗中傷されたことを苦にして、自ら命を絶ってしまった。

 その遺族代理人を務め、日本におけるSNSの開示請求第1号案件を担当した清水陽平弁護士に聞くと、

「今回のケースでは、脚本家の方などを名指しした上で侮辱的な内容を書き込めば罪に問われる可能性もあります。法改正で一昨年7月から侮辱罪が厳罰化され、拘留30日未満または科料1万円未満だった法定刑に、1年以下の懲役・禁錮、30万円以下の罰金が加えられました。とはいえ、実際にSNSで他者への攻撃的なコメントが減ったかというと、全くそんな印象は受けません」

 いったいなぜなのか。その背景には、SNSの運営側の問題もあると清水弁護士は言う。

「たとえばXならウェブフォームもありますが、削除依頼はなかなか認められません。警察に捜査してもらおうにも、データ管理をしているのは海外法人なので日本の警察の捜査は難しい。中傷する者を特定したいと考えても、イーロン・マスク氏がツイッター社を買収して以降、スタッフを大量に解雇したこともあるのか、対応が遅くスムーズに進まない状況が続いているのです」

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