「セクシー田中さん」原作者を追い詰めたSNSの“安直な正義感” 当事者以外が善悪をジャッジする危険性

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 ネット空間における「炎上騒動」は日常茶飯事でも、尊い命が失われたとなれば看過できない一大事だ。誰もがスマホ片手に野次馬となれる時代。悪気なく発信した一言が、見ず知らずの人を極限にまで追い詰めてしまう。そんな“SNSの深淵”を探ってみると……。

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 人気漫画「セクシー田中さん」の作者・芦原妃名子(ひなこ)さん(享年50)が急死してから2週間が過ぎた今月15日、同作をドラマ化した日本テレビは社内に特別調査チームを立ち上げると発表した。原作の版元である小学館や外部有識者にも協力を仰ぐと説明したが、原作者と日テレの間では原作改変をめぐりトラブルが起きていたと報じられてきただけに、ネット上では「対応が遅い」「第三者委員会でなければ原因が隠蔽(いんぺい)される」などと批判が鳴りやまない。

ネット世論が逆転

 今回の騒動を振り返れば、その発端となったのは当該ドラマの制作スタッフで脚本家の相沢友子氏(52)の「SNS発言」だった。ドラマの最終回が放映された昨年12月24日、彼女は自身のSNSで〈最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました〉とつづった。その後の投稿でもあくまで自分は第1話から第8話までしか担当していないと強調し、第9話と最終回が原作者の手によるものだと説明した上で、〈この苦い経験を次へ生かし、これからもがんばっていかねばと自分に言い聞かせています。どうか、今後同じことが二度と繰り返されませんように〉と書いたのだ。

 これらの発言を受けて、当初はネットを中心に脚本家を擁護しようとする声が広がった。

 ところが後日、原作者である芦原さんが自身のブログなどでドラマ化の経緯を丁寧に説明すると、状況は一変する。日テレ側と事前に交わした「漫画に忠実に」という約束が守られず、多忙な連載執筆を抱えながらも脚本に手を加えなければならなかった日々が明らかになり、ネット世論が逆転。脚本家や日テレ側に対して「もう世に出るな」「わびろ」などの誹謗中傷が繰り返される事態に発展してしまう。

 ネットはいわゆる大炎上となったわけだが、これを受けて芦原さんは自身のSNSで〈攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい〉とメッセージを残して、経緯について説明した投稿などを削除。自ら命を絶ってしまったとみられる。

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