妻と不倫相手、どちらとも家庭を築く…「これが自分の誠意の示し方だった」という50歳夫の末路

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そんな矢先に出会った同郷の女性

 いろいろな不安や、それを上回る期待が交錯する日々の中で、彼はある女性と出会ってしまう。それが同郷の文佳さんだ。そもそも同郷だとわかっていたわけではなく、古巣からもらう仕事だけでなく、新規事業を開拓しようと先輩の紹介で出向いた先での出会いだった。

「彼女の言葉から、うっすらと育った地域が近いのかなと思って出身地を聞いたんです。そうしたら同郷だった。しかもいろいろ聞かれて話していたら、彼女は姉と同世代。僕も調子に乗って最後には旧姓を明かしてしまったんです。彼女は言葉を失っていました」

 地元では彼のことが話題になった時期があるという。家を捨てた長男、家族を見捨てた長男、そんなところだろうと思っていたが、「もっとひどい言われようだった」と文佳さんはつぶやいた。

「もともと姑と嫁、つまり祖母と母の関係は近所でも有名だったみたいです。祖母が一方的に母を怒鳴りつけたりしていたから。僕は記憶がないけど、祖母と祖父がふたりで母を庭で殴りつけたこともあったそうです。そういう話を聞いていたら、僕、ちょっと気持ちが悪くなってトイレに駆け込んでしまって……。文佳は『ごめんなさい。こんな話をするべきじゃなかった』と」

共通点で恋が燃え上がる

 そこに端を発して、仕事はうまくいったのだが、文佳さんはよほど後悔したのだろう。お詫びに食事でもと後日、誘われた。

「もう故郷の話、実家の話はしたくないと言うと、『もちろん。今とこれからの話をしましょう』と彼女も言ってくれた。彼女に対して悪い気持ちはもっていなかったので、会って食事をしました。小中学校が同じだったから、学校話は盛り上がりましたが、深掘りしそうになると彼女はうまく話題を変えてくれた。彼女とは大学は違いますが、僕が住んでいたアパートと彼女が学生時代に住んでいたアパートがすぐ近くだったことがわかり、食事を終えると『今から行ってみようか』ということになった」

 共通点を探し、共通点で恋が燃え上がる。こういう出会いは、一気に心が近づいていくものだ。

出会うべくして出会ったのではないか

 一緒に行った「かつて住んでいた場所」は、変わっていなかった。もしかしたら以前、近所で会っていたかもしれないと話が弾む。

「もしかしたら、出会うべくして出会ったのではないかと思いました。彼女もそう思っていた。『うちに来る?』と聞かれ、すんなり行く気になったんです」

 彼女の家では、昔のアルバムも見せてもらった。懐かしいような呪わしいような、そんな気持ちで故郷の景色を眺めた。

「あなたの家ってここじゃない? と彼女に言われて写真を見たら、うちが写っていました。庭で姉と僕らしき人物も遊んでいた。僕が4歳くらいでしょうか。ああ、そうだ、ミミちゃんだと彼女が姉の名前を呼びました。姉は美々子というんです。学校に入る前、よくミミちゃんと遊んだわって。どうしても彼女といると実家がらみの話から抜け出せない。それがいいのか悪いのかわからなくなって、どうにもならない気持ちで彼女を押し倒しました。彼女はまったく抵抗しなかった。むしろ『いいの?』と聞かれました」

 夢のような時間だったと彼は言う。すべての憂さが晴れるような気持ちになった。彼女と体をピタリとつけて横たわっていると、「もしかしたら自分は実家を懐かしんでいるのかもしれない」とさえ思えた。正しくは「実家そのもの」を懐かしがっているわけではなく、取り返しようもない子ども時代を、その記憶をなんとか整理したいということだったのかもしれない。

後編【妻の妊娠中に不倫相手も妊娠させた“ズルい男”の告白 18年続けた「二重生活」を突然、破綻させた出来事】へつづく

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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