診療報酬改定に専門家は「効果があるとは思えない」 “薄利多売化”で陥る異常な医療実態を解説

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世界トップの受診数

 医者としては、サービスを提供するほど儲かることになり、患者にとっては、何度サービスを受けても大してお金かがかかるわけではない。こうした医療界特有の“売りたい放題”の環境があるからこそ、日本ではある“異常事態”が発生しているのだという。

「あまり知られていないのですが、日本の病院受診数は、世界でトップなんです。1人当たりの受診数でいえば、アメリカの5倍。例えば高血圧なら、3か月に1度の診療で、薬を箱でもらっていくなんてことは海外では当たり前なのに、日本の診療は、1か月に1回とか、ひどい場合は『毎週来てください』なんてケースも。適切な医療の供給量を逸脱していると言わざるを得ません。医師会などからの反発を恐れてか、診療報酬の単価引き下げばかりを行ってきたがゆえに、医療が薄利多売化してしまっているように思います。国は診療報酬を引き下げ、その分医者はサービスの供給量を上げるというイタチごっこが繰り返されてきたということです」

 こうした状況を脱却するためには、構造的な部分に踏み込んだ議論をしていく必要があると森田氏。

「私自身は、医療をビジネスではなく、警察や消防などと同じように、もっと公的な事業として扱っていく必要があるのではないかと考えています。本来、『患者が減る』ということは、国民が健康になり、健康保険財政も健全化できるという意味で良いことのはずなのですが、日本では『病院が赤字になってしまう』という議論ばかり。そこを喜べない医療システムに、矛盾を感じます。既得権益を害することになったとしても、必要以上の医療を提供してしまう構造自体を見直そうとしない限り、いくら診療報酬を改定したとて、表面上の話でしかないわけです」

「賃上げ」さえも疑問

 一方、今回の改定で割を食ったのが、医薬品メーカーである。賃上げのための様々な改定が行われた裏で、今回も薬価は引き下げられた。

「医師会に比べて業界団体の力が弱いからか、毎度、薬価だけは引き下げられるばかり。例によって、今回も1%程度の引き下げです。こうした流れによって製薬会社の経営は圧迫されていて、例えば、実績と信頼のある古い薬ほどどんどん安くなり、その結果メーカーが積極的に製造できなくなることで、薬不足が発生するという状況に陥っています」

 これで国民に必要な薬が行き届かなくなるのなら、本末転倒もいいところだろう。

 そんな犠牲を横目に、最優先で考慮された医療従事者の賃上げ。せめてこれくらいの「改定の成果」はないものだろうか。

「発表されている内容を見る限り、本当に賃上げの効果が出るのでしょうか。国からの補助金で病院が儲かっていたコロナの期間を終え、今は経営が苦しいとされるところも多い。今回の改定で賃上げを想定した売り上げの上積みがあったとしても、それが医療機器の購入に使われたり、あるいは役員報酬の増額だけに使われたりすることだって十分考えられます。賃上げの実態も、これからチェックしていく必要があるでしょう」

デイリー新潮編集部

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