「ロレックス買い付けバイト」でトラブル頻発 繰り返される“手口”をバイト経験者が明かす「2回目までは代金が振り込まれたのですが…」

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初回はアルバイト代が支払われた

 帰国後、一行はすぐに中野にある店舗に直行した。買い付けてきた腕時計を店員に渡すと、アルバイト代はその場で現金で支払われたようだ。ただし、「カードで立て替えた腕時計の代金は、後日、口座に振り込みされる」と案内された。

 普通の感覚であれば、この時点で怪しいと思うはずである。何しろ、カードで購入した腕時計の代金は数百万円であり、人によっては1000万円を超えている。カードの引き落としの期日までに振り込みがなされなければその時点で“詰み”であり、膨大な借金を抱える羽目になるのだ。にもかかわらず、誰一人としてこのシステムを不審に思わなかったようである。

 数日後、A氏の口座にしっかりと立て替えた代金が振り込まれた。もうお分かりだと思うが、初回はしっかりと金を振り込んでアルバイトを安心させておき、2回目、3回目へと誘導する典型的な詐欺の手口なのである。安心したA氏はもちろん2回目にも応募し、数週間後、やはりシンガポールに買い付けに行っている。2回目は1回目以上に不発に終わったというが、腕時計の代金は振り込まれた。

 ここから先はA氏が不幸中の幸いだと思うのだが、彼は2回目でこのバイトをやめていたのであった。しばらくして、A氏のもとにアルバイトのメンバーから連絡が入った。立て替えた腕時計の代金が振り込まれていないのだという。A氏はすぐに、これは詐欺だったんだ、とわかった。もし、3回目、4回目と続けていたら……と想像し、冷や汗をかいたのは間違いないだろう。その後、他のメンバーがどうなったのかは定かではない。

詐欺は同じ手口で繰り返される

 このアルバイトは当時、SNSやネット掲示板で騒動になったので、当時、腕時計に関心があった人は覚えているかもしれない。筆者はA氏から知らせを受け、中野ブロードウェイの地下にあったその時計店の住所を訪問している。店舗にはまったく人影がなかった。ショーケースにはロレックスやパテックフィリップと思わしき腕時計が並んでいた。しかし、文字盤をよく見ると、数千円で売られているような“雑貨時計”であった。

 アルバイトを募っていた当時から、店頭にこんな腕時計が並んでいたのかどうかはわからない。しかし、前述のように、応募したメンバーには腕時計に詳しい人はほぼいなかったようだ。素人が見たら、ロレックスだろうとおもちゃであろうと見分けなどつかない。何かしら腕時計を並べ、洒落たデザインのポスターでも掲示しておけば、それっぽい店を装うことができてしまったのであろう。その数か月後、筆者が再び現地を訪れると、店は消えてなくなっていた。

 最近、バブルの頃に流行った原野商法が再び行われていると聞く。詐欺は、基本的に同じパターンの繰り返しなのである。今回、朝日新聞が報じた腕時計の買い付けを巡るトラブルも、筆者が聞いた事例とほとんど同じ手口であろう。求人サイトもこうした手口は把握して掲載しないようにしてほしいものであるが、判断が難しいのだろうか。自分の身は自分で守るしかない。少なくとも「クレジットカードで高級品を買ってきてほしい」というバイトには、手を出さないのが賢明であろう。

 それにしても、昨今はロレックスの販売店に強盗が入ったというニュースや、「ロレックス高騰」「正規店で買えれば儲かる」など転売のネタばかりが語られるようになった。ロレックスはせっかく素晴らしい腕時計なのに、詐欺師や強盗の餌食になり、悲しい話題ばかりが報じられるのが残念である。

山内貴範(やまうち・たかのり)
1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。

デイリー新潮編集部

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