「小銃を抱えた武装集団を見た時は特別な演出かと」「トイレは屈辱的だった」…モスクワ劇場テロ占拠事件 生存者が語った恐怖の58時間

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屈辱的なトイレ

 極限状態に置かれた人質たちの処遇はどんなものだったか。

「2日目にはオープンサンドとケーキが残った子どもたちに配られましたが、わたしたちはチョコレートとチューインガム以外のものはもらえませんでした。チョコレートのかけら2つを、まわりの人質たちで分けました。飲み物は、ファンタ、スプライト、2リットルのジュースにミネラルウォーター2本。それらは劇場内のカフェから持ってきたものです。わたしは幕間のあいだにカフェに行っていたので、それがわかりました。

 それからトイレですが、始め武装グループは『グループで連れて行く』と言っていました。女性のグループはホールの外にあるトイレが、男性のグループは正面の舞台下にあるオーケストラの演奏場所がトイレでした。ただあるときから、性別に関係なくみんなオーケストラの場所がトイレ代わりになりました。屈辱的でした」

 実はこの背後で、ひとつの事件が起きていた。3階のトイレに行った2人の女性、エレーナ・ジノヴィエヴァと友人のスヴェータ・コノノヴァが、そのまま窓から飛び降りて逃げてしまったのである。ふたりは下にいた特殊部隊の隊員に何とか保護されたが、そこで武装グループと局地的な銃撃戦が行なわれた。

 これ以降、人質たちはトイレを制限され、双方の関係は悪化する。ちなみにエレーナは事件後インタビューに応えて「申しわけないです。許してほしいと思います」(『サベセードニク』誌)と語っている。

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 一方でテロリストたちは人質に携帯電話の使用を許していた。それを通じて、チェチェン共和国内におけるロシア軍の軍事行動に反対する主張を外部に伝えていたのだ。そして「特殊ガスが人質を救い、特殊ガスが人質を殺した」と言われる結末へ――。

後編【「ママ、もうこれ以上は我慢できない」と男性は叫んだ…モスクワ劇場テロ占拠事件、極限状態58時間からの脱出と“特殊ガス”】へつづく

松井樹

デイリー新潮編集部

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