プロ野球選手を辞めた後、33歳でラジオ局入りした元ベイスターズ投手(54)のいま「部下の方が優秀。異業種に飛び込むなら必要なことは…」

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「人に質問することに恥じらいがないのが僕の特徴」

「これが、野球に関する仕事だったら、もしかしたらプライドが邪魔をすることもあったかもしれません。でも、まったく知らない初めての世界で、自分の周りには本当に頭のいい優秀な人ばかりいます。何度も言いますが、本当に“自分がいちばんバカだ”と思っているので、プライドどころじゃないんです(苦笑)。同期は本当に優秀ですよ。“みんなすごいな”という思いは入社以来ずっとブレていないし、これからも変わらないと思います」

 これまでのやり取りを通じて、彼の発言は終始一貫して「自分はバカだ」という思いに彩られていた。それは決して、謙遜でも、卑下でもなく、心からの思いであるということはよく伝わってきた。小檜山は心から「自分はバカだ」と感じているのであろう。

「同期に追いついたり、追い越そうと考えたりしたことは一度もないですね。今だって、僕よりも部下の方が優秀ですから。僕は、わからないことは何でも聞けるタイプなんです。早めに聞いた方が自分のためにもなるし、周りの人にも迷惑をかけないじゃないですか。よくも悪くも、人にものを尋ねることに恥じらいがない。それが、僕の大きな特徴なのかもしれないですね(笑)」

 入社後、営業班の班長となり、タイムスポットのデスクのチーフとなり、再び営業を経て、現在はネットワーク部の担当部長になった。この間には横浜支局長も歴任した。33歳でスタートした会社員生活は順調に経過している。毎朝、戸塚から満員電車に揺られながら出社する生活も、すでに20年が経過した。定時は9時半だが、小檜山は毎朝8時半に出社しているという。その理由を尋ねると、白い歯がこぼれた。

「他の人よりもメールの返信が遅いので、ちょっと早めに来てメールを打っているからです(笑)。いまだに、何とかタッチ……、そうそうブラインドタッチはできないですね(笑)」

 スマホが普及し、ラジオの配信アプリであるradikoの登場によって、ラジオを聴く環境は劇的に改善された。本放送だけではなく、Podcastもすでに一般化している。ラジオ局員として、まだまだやれること、やるべきことは多い。

「ラジオに関して言えば、全体的な広告収入は減っています。けれども、これだけスマホが普及したことで、誰もがラジオを聴ける環境が整ってきました。アメリカではPodcast市場がすごく伸びています。その流れは、当然日本にもやってきます。間違いなく追い風は吹いている。未来は明るい。そう思わないとやっていけないですからね(笑)」

 会社員生活20年強を誇る小檜山に、プロ野球を引退してセカンドキャリアに臨む後輩たちへのアドバイスをもらった。その言葉は、とても力強い。

「野球をやっていた経験がプラスになることはとても多いです。たとえば、きちんとあいさつができるとか、時間通りに行動できるとか……。その上で、まったく違う業種に飛び込むのならば、《謙虚に聞く力》が大切になってくると思いますね。僕みたいに、わからないことは恥ずかしがらずにどんどん聞けばいいと思います」

 ベイスターズ時代の後輩である三浦大輔が監督となったとき、そしてバルセロナ五輪でチームメイトだった小久保裕紀がソフトバンクの監督に就任したとき、いずれもお祝いのメッセージを送ったという。

「大輔が監督になったときに、“おめでとう、ところで僕の役割は?”ってメールしたら、“宴会部長でお願いします”と返信が来ました。小久保には、“ピッチングコーチの要請、お待ちしています!”と送ったら、ただ単に、“頑張ります”とスルーされました(笑)」

 後輩たちを通じて、野球界との繋がりは今もある。それでも、野球界に戻るつもりはない。なぜなら、小檜山の胸の内には「このままラジオ業界に骨をうずめるつもり」という強い覚悟があるからだ。それが、覚悟を決めた男の確かな生き方であるからだ。

(文中敬称略)

前編【慶大、五輪日本代表→ドラ1でプロ入りした元ベイスターズ投手(54)の告白「入団前はある程度やれるだろうと考えていたが、現実は全然違った」】からのつづき

長谷川 晶一
1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターに。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。著書に『いつも、気づけば神宮に東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)ほか多数。

デイリー新潮編集部

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