山形で高校教師になるはずだった、現役時代の無口は“作戦”か…元祖・技のデパート「舞の海」の相撲人生

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相撲界は最高に楽しかった

 平成11年九州場所千秋楽。この一番に敗れたら幕下陥落という厳しい現実が、舞の海に突きつけられた。結果が黒星だった舞の海は、引退を決断。準年寄として2年間角界に残る選択肢(現在は廃止)がありながら、スッパリと足を洗った。

「本当は親方になって、自分の部屋を持ってみたかった。自分があまり稽古熱心じゃなかったから(笑)、コツコツ稽古する真面目な弟子を育てたいなぁって……。でも、相撲界は最高に楽しかったです。これから万が一大金を得るようなことがあったとしても、現役時代の楽しさには変えられないでしょうね」

 舞の海の表情は、すがすがしかった。

 現役時代に繰り出した決まり手は、なんと33手。「三所攻め」をはじめ、「外こまた」、「逆とったり」など、舞の海ならではの手があふれている。

 彼の第二の人生のスタートを前にして、寺尾はこう言っていた。

「今は口ベタな感じだけど、あの男は、頭はいいからそのうちしゃべれるようになるよ」

 タレント活動をスタートさせた舞の海は、講演、バラエティ、キャスター、大学講師……と活躍の場を広げている。

 体が小さくても、口ベタでも、死ぬ気になって取り組めば、なんだってできる。後輩・成田選手の魂は、今なお舞の海の中に宿っている。

武田葉月
ノンフィクションライター。山形県山形市出身、清泉女子大学文学部卒業。出版社勤務を経て、現職へ。大相撲、アマチュア相撲、世界相撲など、おもに相撲の世界を中心に取材、執筆中。著書に、『横綱』『ドルジ 横綱朝青龍の素顔』(以上、講談社)、『インタビュー ザ・大関』『寺尾常史』『大相撲 想い出の名力士』(以上、双葉社)などがある。

デイリー新潮編集部

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