結婚報告ラッシュ、タイ大使館に長蛇の列… 突然「徴兵制」を始めたミャンマーでいま起きていること

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「周りのミャンマー人の動揺は、3年前の国軍のクーデターのときに匹敵しますね」

 日系企業で働くミャンマー人のMさん(55)は、ヤンゴンで働く人々の間に広がる衝撃をこう伝えてくれた。

 ミャンマー国軍は2月10日、徴兵制を実行すると発表した。対象になるのは18歳から35歳の男性、18歳から27歳の女性だ。また技術者は男性が45歳、女性は35歳までとされ、女性は結婚していれば免除されるという内容だった。

 2021年にクーデターを起こした国軍は、シャン州北部や西部ラカイン州での少数民族軍との戦闘で劣勢に立たされ、兵士の投降が相次いでいた。徴兵制は、それを補う目的だった。徴兵制の詳細は明らかにされなかったが、発表から24時間の間にザガイン管区、ヤンゴン、南部のタニンダーリなどで80人以上の男性が拘束され、前線に送られたらしい、という一報も入ってきた。地方では徴兵対象者の名簿を提出するよう国軍から通達が届いたという情報も流れた。

 国軍はこれまでも地方の村を急襲し、村民を拘束して前線に送ることを繰り返してきた。ときに彼らを人間の盾に使い戦闘をつづけた。正式の徴兵制が敷かれるとなると、ヤンゴンで働く人々も駆り出される。山岳地帯の前線に送られることは必至だ。地方出身者は、親や兄弟がいる村に銃を向ける任務を負わされる可能性もあった。

拘束リスク…静まり返ったヤンゴン

 徴兵制発表の夜、ヤンゴンは静まり返っていた。21時以降に外にいると拘束されるという噂が流れたため、皆、家で息をひそめているのだろう。地方では、18時には閉めはじめる店が増えた。ヤンゴンで飲食店を経営するRさん(52)はこういう。

「従業員は17時までに帰宅させるようにしました。店は家族だけで後かたづけをして、19時には皆、一緒に家に帰るようにしました」

 ヤンゴンで働く人たちは、皆、動揺を口にする。

「私は戦闘の激しいザガイン管区の出身。自分が徴兵されると思うと……。昨夜は一睡もできませんでした」(Kさん、女性、23歳)

「途方に暮れてます。仕事も手につきません。国軍への不服従運動に参加していたので、徴兵される可能性が高いんです。もう、タイに密出国するしかないかと……」(Mさん、男性、26歳)

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