“崖っぷち”に追い込まれたオリックス「T-岡田」 もう一度輝く姿を見せた時に「4連覇」がぐっと近づく

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「こんなええ選手、おるんや、と思ったわ」

 岡田彰布(現阪神監督)は、オリックス監督就任直後となる2009年の秋季練習で、岡田貴弘がスイングする姿を見た瞬間に「ええのがおるやん」と声を弾ませた。

「こんなええ選手、おるんや、と思ったわ。これは4番やん」

 自分と同じ名字ゆえに「ややこしいやんか」と球団に掛け合い、登録名を公募させたのは岡田監督のアイディアだった。貴弘のローマ字表記と、恐竜のティラノザウルスの頭文字から拝借した『T』をつけての新登録名も、この若きスラッガーの存在を浸透させるのに大いに役立った。

 しかし、そのキングを獲得した2010年の「33本」を、その後は一度も上回ってはいない。一昨年は1本、そして昨季は20試合出場にとどまり、本塁打は0本。年齢と成績を踏まえれば、今年はまさしく進退をかけた“崖っぷちの年”でもある。

 19度目のキャンプは、B組スタートだった。

 独自調整が許される実績と年齢とはいえ、結果を出さなければ、1軍枠を確保されている存在ではない。外野にはFA移籍で広島から加入した西川龍馬、捕手で出場しない日には右翼も守る森友哉、2021年の本塁打王・杉本裕太郎がいる。

 ゴールデングラブ賞を獲得した経験もある一塁にも、昨季初の首位打者を獲得した頓宮裕真がいる。森も、杉本も、頓宮もそれこそDHと“兼任”だし、代打の枠を含めても、T―岡田が狙えるポジションは、現時点でも埋まっている状態ともいえるのだ。

軽くオーバーフェンスできるパワーは健在

 生き残るには、もちろん、圧倒的に打つしかない。

 第1クール最終日の2月4日。雨の上がったグラウンドで、ランチタイムを活用した特打はおよそ20分間。ライナー性の当たりには、勢いがあった。

「意識しているのは、体の動きですね」

 フリー打撃を見ていると、いつになく、動きがスムーズでシンプルに映った。右足をすり足気味に引くと、ボールを待つ一瞬の間がある。そこから、スッとバットが下りてくる。

「ここで動きたいんですよ」

T-岡田が右手で、空中に円を描いたのは“お腹の前”だった。体の真正面でボールを捉える。つまり、ボールを呼び込み、体の回転とパワーで打球を飛ばそうという、長距離砲の原点ともいえるその形を意識しているというわけだ。それを今、丁寧に、じっくりと体に染みこませている真っ最中という。

「股関節の動きですね。捻転っていうんですかね。体の前で、動きをシンプルにしていこうと。足は、それに連動するような感じですね」

 だから、動きがそれほど大きくは映らない。その分、ダイナミックさには欠ける感は否めないのだが、打球をしっかりと捉えられれば、軽くオーバーフェンスできるだけのパワーは健在だ。屋外でのバッティング練習でも、ライナー性の鋭い当たりが、何度となく外野の芝の上を、勢いよく走って行った。

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