「不適切にもほどがある!」今回は純子とムッチ先輩…クドカンの作品にはなぜ“不良”がたくさん登場するのか

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不良にやさしいクドカンと磯山氏

 クドカンと磯山氏の作品にはやたらと不良が出てくるが、そもそも2人は不良に理解があるのだ。石田衣良氏の小説が原作で、クドカンのオリジナルではなかったが脚本を書いた「池袋ウエストゲートパーク」(00年)の主人公・誠(長瀬智也)もそう。困っている人間を見過ごせない誠を、クドカンは街の英雄として描いた。

「木更津キャッツアイ」のメンバーも不良だったが、仲間のためなら損得を考えずに行動するピュアな面が強調された。クドカンと磯山氏にはアウトサイダーと呼ばれる者たちへの深い愛情がある。だから純子とムッチ先輩に多くの人が惹かれる。

 社会のド真ん中にいる人たちに限定したドラマをつくっていないところがクドカンと磯山氏の作品の魅力の1つ。これもクドカンが言うところの多様性なのではないか。

 2人の出会いは1999年。劇団「大人計画」の作家兼演出家だった宮藤氏の才能に磯山氏が惚れ込んだ。「天才」と思ったそうだ。特に笑わせるセンスに非凡なものを感じたという。

 そこで、まず深夜ドラマ「コワイ童話/親ゆび姫」(99年)の執筆を依頼する。翌00年には早くもプライム帯(午後7~同11時)の「池袋ウエストゲートパーク」を任せ、これがヒットしたことから、クドカンは世に出た。

宮藤氏の才能を見出した磯山氏

 かつて磯山氏はこう語っている。

「宮藤クンの魅力は、ストーリーの芯がぶれず、すべての登場人物がどこかで有機的につながっていること。ちょっと出た人が、またあとで別の人と何かの縁で出てくる。1人のヒーローが目立つのではなく、登場人物みんなが素適に見えるドラマだから、役者もノッてやってくれる」(毎日新聞06年5月15日付朝刊)

 確かにクドカン作品はストーリーが途方もなく広がることが多いが、後から辻褄が合わなかったり、疑問点を残したりしたことは一度もない。

「不適切にもほどがある!」でも登場人物たちの多くが徐々に結びついてきた。昭和のムッチ先輩(秋津睦実)と現代の秋津真彦(磯村勇斗・2役)は親子と判明済み。市郎と渚(仲里依紗・34)にも血縁関係があるようだ。2人がキスをしようとした途端、ともに弾け飛んだ。タイムパラドックス(歴史を変えてしまう時に生じる矛盾)が起きたらしい。

 一方、宮藤氏の才能を見出した磯山氏も傑出した能力の持ち主。ドラマ制作者として下積み時代の97年、「ミスターマガジン」(講談社)に身辺雑記的な漫画「プロデューサーになりたい」(ペンネーム・小泉すみれ)を連載した。高く評価された。ドラマ業界の裏側を描く一方、上司の有名プロデューサーたちを揶揄した。それでいて嫌味はなく、読後感は爽やかだった。

 クドカンは磯山氏との出会いがなかったら、ドラマ界で順調に歩めていたかどうか分からない。一方で磯山氏もクドカンと会わなかったら「会社を辞めて、(特技の)漫画を描いていたかも」(読売新聞03年10月16日付夕刊)という。ドラマ界にとって貴重な巡り合わせだった。

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