性問題を考えるヒントになる…「不適切にもほどがある!」が示した「IC」「ホモソ」「みんな誰かの娘」というキーワード

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大物有名人と「女性との飲み会」の持ち方を考えさせる「ホモソーシャル」

 もう一つのキーワードが「ホモソーシャル」だ。“令和”の社会学者でタイムスリップして“昭和”の文化、ジェンダー意識を研究する向坂サカエ(吉田羊)がこの言葉を口にする。

 彼女の中学生の息子のキヨシが転校先の同級生・井上昌和と仲良くなるが、井上はサカエの元夫で、キヨシの父親の中学生時代の姿だ。タイムマシーンの発明者でもあり、市郎やサカエたちをタイムスリップさせることになるのは彼の発明ゆえだった。BL漫画を愛する中学時代の井上は、キヨシに「他人と思えない」と告白してキスを迫る。キヨシは令和のLGBTQの教育環境に育ったこともあり、それを受け容れようとする。

 そしてのちにサカエが井上から電話を受けた際に、彼女は感情的になって思わずこう口走ってしまうのだ。

「井上くん、よく聞いて。あなた。自分がモテないからって、女を軽視している。女性蔑視。あなたそういうところある。昔から。ミソジニーの属性があるんです。昔から。そういう男に限ってホモソーシャルと、ホモセクシュアルを混同して、同性愛に救いを求めるの。井上くん、今ここ。わかる? 女にモテなくて、男に走っているの。あなた中二病なの! 自分がモテないのは女が悪いという考えを捨てない限り、モテないし、変われない。わかる?」

「ホモソーシャル」。多くの人にはまだ馴染みがない言葉だが。令和の“性”をめぐる問題を考える上で大切なキーワードとされているのがこの言葉だ。実はドラマ内でたびたび登場している。

 たとえば、“令和”の時代にテレビ局のカウンセラーに就任した市郎のところに相談が持ち込まれる場面。あるプロデューサーが「『俺たちチアリーダー』という青春ドラマを企画したところ、『俺たち』という言葉がホモソーシャル的で女性を排除しているという書き込みがあった」という相談だった。

 市郎は「ホモソーシャル」の意味がわからず、ホモセクシュアルだと勘違いするという程度の登場だった。

 ところがドラマの外では「ホモソーシャル」という言葉は今、情報番組などでたびたび登場する言葉になっている。

 大物芸人の男性が後輩芸人の男性たちと一般女性との間で飲み会を開き、そこで性的な行為を強要したのかどうかが取り沙汰されているが、こうした飲み会のありようそのものが社会学では「ホモソーシャル」なものであり、見直すべきだという批判が強くある。1月21日のTBS「サンデー・ジャポン」で、東京大学大学院の斎藤幸平准教授は大物芸人の「ホモソーシャル」について次のように指摘していた。

「個人のスキャンダルに留めてしまってはいけない。もっと構造的な問題だと思うんですね。『ホモソーシャル』という社会学の概念がある。『男同士のつながり合いのための欲望』という意味なんですね。(中略)今回、たちが悪いのは後輩の芸人の人たちを使って、“共同のちょっと悪い秘密”みたいなものを使って、自分たちのつながり合いを強めていく。そのために女性を利用していく。これがホモソーシャルの悪いところ」

 斎藤准教授は、大物芸人たちのケースに加え、スポーツ選手がトレーナー男性と共に行ったと報じられた“女性との飲み会”についても次のようにコメントしている。

「今後は選手とか関係者たちが試合後にお酒を飲みながら、女性を呼んで華やかに…みたいなそういうストレス発散の方法は見直していかないと…。たとえば太谷翔平選手などMVPの時も犬と戯れていたりする。そういうもっとクリーンなストレス発散が必要…」

 ドラマ「不適切にもほどがある!」では「ホモソーシャル」そのものについてドラマ内で深追いはしなかったものの、ジェンダー的な観点から昭和の文化やハラスメントを研究しているサカエの意識する言葉として登場していた。そのことに筆者は大変感心した。

「俺もやるからお前もやろう…」という男同士の理屈。相手側の女性の気持ちや人権を考えない「飲み会」の在り方。裁判の争点とはまた別に、いま話題になっている女性との“性”をめぐるトラブルをいったいどう考えるべきなのか。「ホモソーシャル」という視点で考えれば理解できることがある。

 それをドラマの中にさりげなく潜り込ませているのはなかなか「したたか」で「深い」制作姿勢だと思う。

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