かつて「テイラー・スウィフト」の名が日本で浸透しなかった事情 トランプも白人層へのアピールに利用した過去
東京・渋谷のセンター街は、今週頭まで「テイラー・スウィフト」一色だった。東京ドームで行われた来日公演は2月10日に終了したにもかかわらず、「ようこそ日本へ!」の垂れ幕は井の頭通りまで続き、彼女の楽曲があたりに鳴り響いていた。
【写真】2009年の取材時、筆者とテイラーのツーショット ほか
そんな米国のカリスマ・アイドル、テイラーが、今秋の米大統領選を巡って波乱を巻き起こしている。現大統領のバイデン氏と前大統領のトランプ氏がSNSで応酬を繰り返しているが、「勝負の鍵はテイラーが握っている」とも言われている。
「次期大統領選で誰を支持するのか、現時点ではテイラーはまだ明らかにしていません。しかし、前回(2020年)はバイデン氏を支持し、選挙戦に大きな影響を与えました。そういったことからトランプ氏はテイラーの動きに警戒しているのです」(米在住の音楽ライター)
前回、土壇場でバイデン支持を表明した彼女の動向がトランプの脳裏をかすめたことだろう。自らのSNSではテイラーを名指しで「アメリカ史上最も腐敗した大統領であるバイデンなんかを彼女が支持するはずがない」と投稿。さらに、自身の大統領在任中に米音楽業界に多大な貢献をしてきたことを挙げ「あれだけ金を稼がせてやった俺に対して不誠実になれるわけがない」などと、恩着せがましい表現で牽制し始めた。
テイラーは、同世代や若者を中心にインスタグラムのフォロワー数が2億8000万人を誇り、X(旧ツイッター)のフォロワーも1億人に迫っている。昨年12月には米タイム誌の「今年の人」に選ばれた。そんなテイラーの影響力を「SNS好き」のトランプ氏が見逃すはずがない。ゆえに、バイデン氏が突然にTikTok投稿を始めた“裏側”が気になっているはずである。
「テイラーの音楽が25%嫌いになった」
アメリカン・アイドルのカリスマのテイラーが、政治的発言をインスタグラムに投稿し始めたのは2018年のことだった。米国中間選挙を前に、
「これまでは自分の政治的意見を公に出すのを避けてきましたが、過去2年間に私の人生や、この世界で起きたさまざまな出来事を鑑みて、今ではそれは違うと考えています」
と投稿したのだ。
これがやがて政界を巻き込む論争となり、米国で社会的問題に発展していた「MeToo運動」とも重なって、多くの俳優やアーティストが、自身の支持する政党や候補者を叫ぶムードが生まれた。
「米国ではアーティストや俳優など社会的影響力のある人間は、政党や候補者を応援することを自分たちが果たすべき役割と考えていますからね。実際に16年の大統領選ではケイティ・ペリーやビヨンセ、レディー・ガガらが、初の女性候補だったヒラリー・クリントンを応援し、キャンペーンにも協力していました。18年の時は、テイラーが共和党候補者を批判し、民主党への投票を明らかにしたわけですから、さすがのトランプ陣営も慌てたようです」(前出の音楽ライター)。
こうした動きを受け、当時トランプ氏は「テイラーの音楽が25%嫌いになった」と言い始めた。ファンからの反感を気にしてなのか、意味のわからない妙な言い回しである。
その中間選挙から6年、さらに大統領選から4年という歳月が経ったわけだが、その動きが再燃し始めたといえる。むしろ今回は、前回以上にテイラーへの注目度は高まっているのである。
なぜか? 彼女の人気と影響力について改めて考えてみた。
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