日本のサル真似が4月危機を呼ぶ? 尹錫悦政権、総選挙目前に株もテコ入れ
上場しようと「ワシの会社」
――なぜ、韓国のオーナーはそんなわがままが言えるのでしょうか?
鈴置:韓国の証券取引所は1956年にスタートしましたが、上場を希望する企業がほとんど出てこなかった。株を公開すると乗っ取られるとの意識が強かったためです。
業を煮やした政府は大きな企業は無理やりに上場させてきた。そうした経緯もあって「上場してやった」企業のオーナーはわがまま放題、やりたい放題だったのです。
ソウル在勤中、こんな経験をしました。ある大財閥が傘下の企業の間で工場を移し替えました。両社とも上場していましたが、それをきちんと開示しませんでした。
オーナーに「開示しなくていいのですか」と聞いたら、答は「私の財布を右のポケットから左に移したといって、いちいち世間に言う必要があるのかね?」でした。韓国では上場企業も、オーナーにとっては「ワシの会社」なのです。
――オーナーの専横が問題にならなかったのですか?
鈴置:当時――1980年代までは「わがまま」は問題になりませんでした。外国人は韓国株を直接買えませんでしたから、韓国独特の奇妙なやり方に文句を言う株主はいなかった。
時価発行増資の際に株価を下げ、足りない分を銀行借り入れや債券発行で資金調達したら当然、資金調達コストが上がります。でも他の韓国企業も同様の行動をとっているので競争上、不利になりませんでした。
このため、それが「韓国の常識」として定着したのです。ガバナンスに関する最近の韓国紙の記事を読むと「まだ韓国は1950年代のやり方で動いているのだなあ」と驚かされます。
企業統治でも中国側
1990年代から外国人も制限付きですが、韓国の上場株式を買えるようになりました。通貨危機が起きた翌年の1998年には全面開放されました。IMF(国際通貨基金)による救済の見返りでした。
株も為替も割安と見た外国人投資家がラッシュし、2004年末には韓国証券市場の外国人持ち株比率は42・0%に達しました。外国人投資家は「韓国ルール」に不満を漏らしながらも、サムスン電子など伸び盛りの韓国株を買ったのです。
しかし、韓国の成長が頭打ちになると、外国人投資家は次第に韓国離れしました。2023年末の外国人持ち株比率は28・8%まで下がっています。
一方、日本の証券市場の外国人持ち株比率は2004年度末には23・3%と韓国に大きく水をあけられていました。が、じりじりと追い上げ2013年度末に30・8%と、初めて30%台に乗せました。2021年度以降は韓国を上回っています。
先に引用したハンギョレの記事も、朝鮮日報の社説も「証券市場の国際化に地道に取り組んできた日本」を強調しています。「PBRを改善せよ」と企業に要求しただけで日本の株が上がったわけではないのだ、と尹錫悦政権に警告したのです。
冒頭に申し上げた通り、韓国株が中国株に連座するのは実体経済の依存度が高いからです。同時に、企業統治の怪しさが中韓で共通するからでもあります。韓国が中国側の国と分類されるのには、複合的な理由があるのです。
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