日本のサル真似が4月危機を呼ぶ? 尹錫悦政権、総選挙目前に株もテコ入れ

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突然「株価を上げよ」と命令

――でも、対中依存度は急には下がらない……。

鈴置:尹錫悦政権は奇手に出ました。1月17日、日本の金融庁に相当する金融委員会が突然、上場企業に対し「資本効率を高めよ」と命じたのです。金周顕(キム・ジュヒョン)委員長は以下のように述べました。

・2023年末基準で「1・1倍」に過ぎないPBR(株価純資産倍率)を日本の水準である「1・4倍」よりも高くし、米国の水準の「4・6倍」まで引き上げたい。

 PBRとは株価を1株当たりの純資産で割った数字です。「1倍」未満なら株価は割安、それより大きければ「割高」を意味します。金周顕委員長は「チャーミングな企業に変身して株価を上げろ」と迫ったわけです。

 金融委員会が同じ日に発表した「2024年重要業務計画」でも、株価テコ入れ作戦に関しては「企業バリューアップ・プログラム」の項で触れています。

 ただ、17ページの資料のうち、たった3行を使って説明したに過ぎません。「この株安を何とかせよ」と大統領室に叱られて、お手軽な「株価浮揚策」をでっち上げた感じもします。

 そもそも上場企業にPBRを上げるよう求めるのは東京証券取引所の手口そのもの。韓国では「早急なテコ入れを求められた金融委員会が、焦って日本の手法をパクった」と見なされました。

 もっとも、パクリだろうと何だろうと発表翌日の1月18日以降、株は持ち直しました。「1倍未満」の会社に投資するブームが起きたのです。日本のように“行政指導”で株が上がるのなら、政府に睨まれた「1倍未満」の会社の株を買っておけば確実に値上がりする、との思惑からです。

「企業バリューアップ・プログラム」は腰だめで発表した感が強かった。金融委員会は2月6日に「資本市場政策課題推進方向」を公表して少し肉付けし、2月26日には全体像を発表します。

 韓国各紙によると「企業バリューアップ・プログラム」は3本柱で構成される模様です。(1)PBRなど投資指標を時価総額や業種別に公開(2)上場会社に対し企業価値改善計画を公表するよう勧告(3)価値向上に努めた企業で構成する指数による上場投資信託(ETF)を導入する――です。(1)(2)は東証の手法と同じです。

あまりに安易なパクリ

――株が上がったのだから、投資家も政府も喜んだ……。

鈴置:しかし、専門家は一斉に疑問を呈しました。「企業バリューアップ・プログラム」が公表された1月17日、韓国経済新聞は「『これは悪い株!』…烙印を押し恥かしめるという金融委の恫喝」(韓国語版)で、そのいいかげんさを厳しく指摘しました。

・「PBR1倍未満」の企業に一律に烙印を押すのが正しいのか。なぜ、PSR(株価売上高倍率)やPER(株価収益率)など多様な評価手段の中からPBRを選んだのか、金融委員会は明快な説明をしていない。
・金融委員会が作為的に選んだ「株価の低い企業」に烙印を押し、恥ずかしめることが正しいのかとの指摘もある。

 これを読んだ人は金融委員会が「悪者」を作って株安の責任逃れをしているのだな、と思ったでしょう。日本が株価テコ入れの指標にPBRを使ったと知っている人は、金融委員会の安易さにため息をついたはずです。

 その後も韓国紙には、日本は株価対策だけではなく腰を据えた改革を実施してきた。現在の株高はその成果だ。しかるに我が国は改革に取り組まず、日本の表面だけを真似しようとしている――といった批判が相次ぎました。

アベノミクスで輝く日本

 中央日報・経済エディターのキム・ドンホ氏は「【コラム】眠りについた安倍氏が助けた…うまく行く日本の秘訣」(2月15日、日本語版)で以下のように書きました。日本語を整えて引用します。

・日本経済が熱くなっています。2013年に発足した安倍政権が放った金融・財政・成長の「3本の矢」政策が輝き出しているようです。証券市場改革を推進し、女性の社会進出環境を拡充し成長を図りました。
・その結果、日本はいまドル高の余波で円安となり、外国人の投資が続いています。中国を脱出した資金が日本に流れ込み、日経平均株価を1990年1月11日から34年ぶりの高値に引き上げました。
・日本政府の経済再生は進行形です。非課税を拡大した新しい少額投資非課税制度(NISA)には1カ月間で1兆8000億円が集まりました。
・大企業の規制を減らすために「中堅企業」の分類を新設するとのニュースも目に付きます。300人を境に中小企業と大企業に分けていましたが、今後は300―2000人を中堅企業とみて税制と買収合併で支援します。
・PBRの低い企業を証券市場から追い出し、企業価値上昇の手綱を引き締めています。

 ここまで日本を褒める記事は最近では珍しい。21世紀に入ってからというもの、アベノミクスを含め「日本はやることなすこと全てダメ」といった記事が韓国紙の定番だったのですが。

 韓国の経済専門家の多くは「企業バリューアップ・プログラム」の動機が選挙対策と不純のうえ、決定過程もあまりに稚拙――と冷ややかに見ている。その反動で日本や故・安倍晋三氏を称賛している感じもします。

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