【アスリート撮影問題】ネット上でAIによる「アスリートの性的画像」が販売されている…醜悪なコンテンツをどうすべきか
立件へのハードル
SNSの普及で画像の投稿と拡散は極めて容易になった。ネット上で広まるほど、そうした画像に興味を持っていなかった人も存在に気づく。閲覧したことで興味が芽生えたとしたら、いたずらに愛好者の裾野を拡げたことになってしまう。また、欲望がエスカレートし、人工的な生成物では満足できなくなり、実際の写真に関心を持ってしまうケースも充分に考えられる。
「AIが生成した画像を元に、顔の部分を現実のアスリートに置き換えることも、今の技術なら簡単です。こうした合成画像は刑法なら名誉毀損罪が視野に入ってきますが、実のところ立件にはハードルがあるのです。名誉毀損罪が成立するには被害者の『社会的評価の低下』を立証する必要があります。そしてアスリートが被害を受けても、『かわいそうだと思う人が大半で、社会的評価は低下していない』と判断されることも珍しくないのです。被害を受けたアスリートが、『名誉毀損による立件は難しい』と知らされ、さらに精神的ショックを受けてしまう。やはりインターネットや画像処理の技術発達に対応するため、様々な法改正が求められているのではないでしょうか」(同・工藤弁護士)
室内で行われる競技など、一部のスポーツでは撮影禁止のルール作りが功を奏する場合もある。だが、工藤弁護士が実情をよく知る陸上競技においては、撮影禁止は現実的な解決策にはならないという。
広範な議論が必要
「陸上競技でも大規模な大会ならボランティアや地元警察に巡回を依頼しており、抑止力として一定の成果をあげています。しかし、地方で行われる中学生や高校生の小規模な大会となると、人手の関係からスタッフの巡回さえ難しいというのが現状です。何より、誰だって自分が応援するアスリートの写真は撮りたいと思うものです。撮影という、それ自体はごく自然な楽しみ方の一つを、一部の不届き者の行為を理由に奪うわけにはいきません。結局、最も有力なのは『アスリートが安心して競技をすることができなくなるような態様・内容の撮影や、その画像の拡散を許してはならない』という共通認識が定着することであり、悪質な事案には刑事罰が適用されるべきだということです」(同・工藤弁護士)
今のところ「AIが生成したアスリートの性的な画像」は野放しの状態となっている。だが、あまりに悪質なケースには立件が必要であることは言うまでもない。そのためにいかなる法整備を行うべきか、国民による広範囲な議論が求められているという。
「現実に存在するアスリートに対する被害と、競技の妨げになるようなことは絶対に撲滅しなければなりません。その上で、表現の自由とどう折り合いを付けながら、アスリートを守るための法整備を行うか、ということだと思います。こうした議論が盛り上がることは大歓迎ですが、一時的なもので終わっては意味がありません。広範な議論を、継続していくことが何よりも重要でしょう」(同・工藤弁護士)
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