【大川原化工機冤罪事件】「経産省の規制が多すぎて世界の動きに追従できない」社長が語る日本産業への危機感
国際的な取り決めが無視されている
経産省の規制には問題があると大川原社長は言う。
「貿易の基本には国際的な取り決めがあります。噴霧乾燥機で生物兵器を製造する場合、製造にあたる作業員らが機械内部に残る有害な菌に暴露するのを防がなければなりません。それができない装置は生物化学兵器の製造には使えないということが国際的な規制のベースにある。しかし、その前提を経産省が軽視して省令を発案している。考えられないことですよ」
粉体物性計測機器などの製造販売をおこなうセイシン企業(東京都渋谷区)がミサイルの飛距離を伸ばすための研究開発に使われる機械をイランに不正輸出したとして警視庁公安部に摘発され、04年に有罪判決を受けた事件がある。
大川原社長は「何種類もあるロケット推進薬の中で、1種類でもその材料になったら禁輸品目に該当するという変な理屈で、セイシンさんは有罪になった。噴霧乾燥機で言えば、1種類でも菌が死ねば生物兵器に転用できるというのと同じです。すべての火薬や微生物を手に入れて実験しなければ、該当するものが全くないとは言い切れません。そんな馬鹿な話があるのでしょうか」
兵器転用の可能性だけで規制できるのか
大川原社長は輸出規制の難しさをこう語る。
「輸出された製品を兵器に作り替えるなんて、やろうと思えばできることです。ガザ紛争で見られるように、ランドクルーザーだって戦車まで行かなくても戦闘車両に改造できるでしょう。兵器に転用できる可能性があるという理由で機械の製造を規制していたら、何も作れないし、輸出できません」
噴霧乾燥機についても同様だ。
「噴霧乾燥機を製造する会社は、海外ではドイツのGEA社とかアメリカのSPXがある。GEA社は6000人くらい社員がいて、売上規模は7000億円でわれわれとは桁違い。噴霧乾燥機は世に出て100年くらい経っており、その仕組みや技術を熟知する人は世界にたくさんいます。基準に則ったものを輸出したとしても、機械の一部が改造され、悪用される可能性まで完全になくすことはできません」
そのためオーストラリア・グループと呼ばれる国際的な枠組みが作られ、対象の機器の仕様を定めて各国が足並みを揃えようとしている。
「日本の法律を国際標準に変えてゆく必要性を裁判所には判決で言ってほしかったが、肝心のその部分が抜けている。どこか本質的な問題を避けている印象の判決ですね」
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