【大川原化工機冤罪事件】「経産省の規制が多すぎて世界の動きに追従できない」社長が語る日本産業への危機感

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 2020年3月、大川原化工機株式会社(神奈川県横浜市)の大川原正明社長(74)ら3人が「生物兵器の製造に転用できる工作機械を無許可で輸出した」という外為法(外国為替及び外国貿易法)違反の容疑で警視庁公安部に逮捕され、裁判の直前に起訴が取り消された。逮捕は会社に大きな打撃を与えた。大川原社長は、今後、国の施策が産業界の発展を阻害することを憂いている。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

国と都、大川原化工機、共に控訴

 問題とされたのは大川原化工機が製造する「噴霧乾燥機」で、コーヒーやスープなどの液体を紛粒状にする機械である。噴霧乾燥機は炭疽菌など生物兵器の製造に転用される可能性があるため、一定の条件を満たすものについては海外輸出に経済産業省の認可が必要とされる。大川原化工機の噴霧乾燥機は規制の対象外であるにもかかわらず、警視庁公安部は不正輸出をしたとみなし、社長らを逮捕したのだった。

 大川原社長と元役員の島田順司さん(70)、7カ月の勾留期間中に胃がんが判明して亡くなった相嶋静夫さん(享年72)の遺族は、21年9月、国(検察庁)と東京都(警視庁)に約5億6000万円の損害賠償を求め提訴した。昨年12月、東京地裁(桃崎剛裁判長)は約1億6000万円の賠償を命じる判決を言い渡したが、国と都は1月10日までに控訴。これを受けて大川原化工機側も控訴した。

 控訴直前の1月5日、横浜市の本社で大川原社長に取材した。国と都に賠償命令がくだったものの、問題点は多いと語る。

「判決を振り返ると、こちらが主張した法律の解釈の部分は認められていないんです」(大川原社長、以下同)

乾燥機の実験を繰り返した

 警視庁公安部は《噴霧乾燥機のヒーターで空焚きし、細菌を1種類でも死滅できる温度を維持できれば殺菌に該当する》との独自の解釈を採用した。これを経済産業省が国際基準に基づき《定置した(分解しない)状態で内部の滅菌または殺菌をすることができるもの》を輸出規制の対象とすると定めた省令に則ったものと認めた。

 一方の大川原化工機側は《日本が準拠する国際基準(オーストラリア・グループ=生物化学兵器転用を防止する国際取り決め)の殺菌の定義は「薬液による消毒」と決めている。問題にされた噴霧乾燥機はその機能がない》としたが、判決ではその主張には触れられなかった。

 一方で、同社の製品には熱風を吹き込んでも温度が上がり切らない箇所があり、細菌が死滅しないため生物兵器の製造に使えないということが認められ、それが起訴の取り下げにつながった。

「裁判所がわれわれの解釈論(法律の解釈の範囲内で主張を行う立場)を取り上げない可能性があったため、実験によって相手の主張を覆さなければなりませんでした。高田剛弁護士が乾燥機内に温度が上がらない箇所があるということを主張する方針を立てた。それを証明するために、社員らが徹底的に実験してくれました」

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