娘が生まれ「初恋の人妻」のことばかり思い出す47歳男性… SNSで再会を果たした後に待っていた悲しすぎる結末

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一目でいいから会いたい、会って話すだけなら…

 ある夜、彼は彼女のSNSにメッセージを送った。覚えていますか、と。ドキドキしながら、その日は早くベッドに潜り込んだ。すぐに答えは知りたくなかったのだという。翌朝、通勤時間にチェックしてみると、彼女から返事が来ていた。

「もちろん覚えています、と。気持ちが逸って、会いたいと伝えました。すると彼女は、『私も会いたいけど、今、夫が重い病気で入院している』って。ていのいい断りかと思ったんですが、その後、彼女は『あなたは私の人生で、唯一愛した人だと思う』と書いてきた。涙が出そうになりました。思いは同じだった。四半世紀以上の時を経て、ようやくそれを確認することができて、本当にうれしかった。僕のひとりよがりではなかった。人として男として、認められた感覚が強かった」

 一目でいいから会いたい、会って話すだけならいいのではないかと彼は彩花さんを説得した。

「ようやく会えたのは去年の暮れに近い時期でした。日時を指定されて行った先は緩和ケアの病院だった。部屋まで指定されていたので、ご主人の病室に行っていいのかと思いながら、こっそり部屋を覗いたら痩せた彼女がベッドに身を起こしてこちらを見ていました」

 病気だったのは夫ではなく、彼女自身だった。景太郎さんは言葉を失った。騙してごめんねと彼女は笑った。

 言葉が途切れた。私の目の前で、景太郎さんが黙ったまま、ボロボロと涙をこぼしていた。「何を話したのか……。僕はただショックで、どうしてもっと早く連絡をとらなかったんだろうと後悔していました。彼女は『会えてうれしい』と素直に言ってくれました。どうやらご主人はほとんど見舞いに来ないみたいです。先が見えている病人に付き添うのが怖いんでしょと彼女は言っていたけど。あのとき2歳だった息子が、よく来てくれるの。娘は遠方にいるんだけど、それでもたびたび来てくれていると」

 言葉を失った彼は、ただ彼女に向かって「あなたのことだけ思って生きてきたような気がする」と告げた。私もよと彼女は静かに微笑んだ。帰り際、彼女をそうっと抱きしめた。痩せた体が悲しかった。

「5日後にこっそり病院に行ったら、その前日、亡くなったそうです。もう会えない、でも最後に会えてよかった、でもまた会いたかった。そんな気持ちが交錯して、自分がどういう立場なのかもわからなくなり、僕、実はその場に倒れてしまったんですよ」

 気づくとその病院のベッドに寝かされていた。貧血を起こしたようだった。点滴をしてもらって帰途についた。

「家に着くと、ちょうどリビングにいた娘と出くわしました。『おう、体は大丈夫か』と声をかけたら娘が『うん』と返事をした。あ、この子は部屋にひきこもっていたけど、たぶん大丈夫、きっと自分の足で立って歩けるはずだと確信しました。『近いうち、映画でも観に行かないか』と誘ったら、娘が頷いて笑ったんです。久しぶりに娘の笑顔を見ることができた。彩花さんが応援してくれている。そう思いました」

 彼はまた目を潤ませた。過去も今も、そしてこれからも僕は彩花さんを愛しながら生きていく。心の中に、あの頃と同じ熱い情熱を秘めたまま。

前編【夫に愛されない10歳年上の人妻に誘われて…アラフィフ夫が今も忘れない「魂がつながった」苦学生の恋】からのつづき

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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