夫に愛されない10歳年上の人妻に誘われて…アラフィフ夫が今も忘れない「魂がつながった」苦学生の恋

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呼び出されると、彩花さんの夫が…

 購入してからも彩花さんからはときどき連絡が来た。教材の使い方を教えに行くこともあった。アフターサービスのつもりだったが、彼女への気持ちがあったからこそしたことだと今は認めている。

「ただ、相手は人妻ですからね。彼女のほうも誘ってくるようなことはない。もしかしたら僕が気づかなかったのかもしれないけど、あからさまな誘いはありませんでした。あるときなど日曜日に呼び出されたことがありました。いましたよ、ご主人。彼女は僕を紹介しましたが、ご主人はほとんど僕のことなど無視して、子どもさんと遊んでいました。僕を同じ男としてなんて見てないことへの嫉妬を感じたし、彼女が言うほど夫婦仲が悪いわけでもなさそうで悔しかったし。とぼとぼ帰ったのを覚えています」

 そうやって彼を突き落としておいて、翌日、彼女からはまた連絡が来た。初級の教材を購入したのだが、中級用もほしいというのだ。売れるなら行くしかなかった。

「行ってみたら、昨日はごめんなさいね、と。あなたを利用した、夫に少しでも嫉妬してもらいたかったの、と。なんだかけなげで、僕まで悲しくなりました。他の団地などでも、夫に相手をしてもらえないと嘆く女性はいたけど、『だからおにいさん、私とどう?』という人もいたし、『だからお金を遣ってやるの』と高い教材をストレス解消のように買う人もいた。彩花さんは夫に愛されていないことをただ悲しがっていた。その純粋さに心を持っていかれたんです」

隙を見せてくれたのか

 彼はとうとう自分を制御しきれなくなった。契約書を書いている彼女の手を握った。ハッと驚いている彼女の表情に、彼は期待されていたことがやっとわかった。

「その日、子どもは彼女のおかあさんが預かってくれていると聞いていたんです。やっと彼女が隙を見せてくれたということだったのかもしれない。ようやくそこに気づき、彼女と関係をもちました。10歳年上の大人の女性の魅力に、僕は完全にやられました」

 翌日も、その翌日も会いに行った。だが彼女もそうそう子どもを預けるわけにはいかなかった。3日目は、隣の部屋で子どもが寝ている状況だった。だが若い性欲は止められない。ことの最中、子どもが泣き出した。彩花さんは彼を突き飛ばして子どもの元へと走っていった。

「僕はそれを見て、身支度を調えて家を出ました。彼女にとって最優先は子どもに決まってる。まだ携帯電話などなかった時代だし、彼女とはそれきり。半年ほどのつきあいでしたが、喪失感は強かった。僕はすぐにそのバイトをやめて引っ越したので、連絡のとりようもなかったはずです」

 なんとか大学を卒業し、中堅企業に入社した。社会人になって恋愛もしたが、彩花さんとの関係ほど自分が刺激されはしなかった。

「一緒にどこかに行ったわけでもなく、デートしたこともない。関係をもったのは2回だけ。それなのに彩花さんに、僕のすべてを捧げたような気持ちでした。彼女とは魂がつながっている、話さなくても魂が行き交う感じがする。そう思っていた」

 彼の初めての女性でもあった。だからこそ執着したのだろうか。そう聞くと、彼は「それもあるかもしれないけど、のちの女性経験から考えても、彼女は特別な感性があったと思う。相性がよかったんですよ」と恥ずかしそうに小声で言った。

 彼女への思いを秘めたまま、彼は彩花さんにどこか顔つきが似ている映子さんと、27歳のときに結婚した。同僚からの紹介で出会った映子さんは5歳年上だった。景太郎さんの母親と同居することを拒絶しなかった「珍しい」女性でもある。

後編【娘が生まれ「初恋の人妻」のことばかり思い出す47歳男性… SNSで再会を果たした後に待っていた悲しすぎる結末】へつづく

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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