夫に愛されない10歳年上の人妻に誘われて…アラフィフ夫が今も忘れない「魂がつながった」苦学生の恋
人は若いころの恋を、どこまで生々しく記憶しているものなのだろう。その後、前を向いて進んでくれば、当然、「あの恋」だって「この恋」だって鮮明さは失われていくもの。下手すれば記憶をうまくすり替えて、普通の恋が「全身全霊をかけた情熱的な恋」になってしまうこともありそうだ。
速報「娘はフェイク情報を信じて拒食症で死んだ」「同級生が違法薬物にハマり行方不明に」 豪「SNS禁止法」の深刻過ぎる背景
速報「ウンチでも食ってろ!と写真を添付し…」 兵庫県知事選、斎藤元彦氏の対抗馬らが受けた暴言、いやがらせの数々
半世紀近く生きてきた、人生のベテランだからこそ、過去の恋を懐かしく思い出すのか、あるいは残りの人生を考えると、あの頃の恋が急に当時と同じような鮮烈さで蘇るのか。
「50歳近くなって思うのは、情熱的な恋は一度しかしなかったなということでした。自分の当時の情熱のありようが懐かしいとしみじみ思った。激しい恋がしたいわけじゃない。でもあのときの自分と彼女の関係をもう一度なぞってみたい。そんな気持ちはありました」
坂口景太郎さん(47歳・仮名=以下同)は遠い目になってつぶやいた。今現在、不倫をしているわけではないが、自分の恋愛話を聞いてくれないかというメールをもらい、何度かやりとりをして会うことになった。メールでは過去を自慢するわけでもなく、淡々と書かれた文章が印象的だった。
「あなた、お腹すいてない?」
175センチほどの身長、中肉でこめかみにうっすらと生えた白髪がダンディな中年に見える。メールの印象通り、落ち着いた口調で話すが、そういう口調にありがちな説教臭さはない。
「僕が今も思っているのは、19歳のときに知り合った10歳年上の女性なんです。当時、彼女は結婚していました。馴れそめですか? うーん、これを話すと彼女への偏見が生まれそうだけど……。学生時代、僕は アルバイトで子ども用の英語教材を売り歩いていたんですよ。古い言い方だけど、苦学生で大学は二部に通っていました。夜間ですね。学費も生活費も自分で出していた。うちは離婚家庭で、兄は父が引き取り、僕は8歳から母とふたりで暮らしていたんです。兄とは生き別れのまま、ずっと会えなかったんですが、それはともかく、英語教材はひとつ売れると利益が大きい。子どもの洋服などが干してあるようなマンションとか団地を回って売っていました」
売れる日と売れない日がある。前日からまったく売れず、意気消沈しているときに教材を買ってくれたのが、彩花さんだった。最初から彼女は好意的だった。
「2歳の子が寝ているから静かにねと言いながら、教材についていろいろ質問してきました。子どもに英語を教え込むことがいいか悪いかは別として、教材自体は本当にいいものだったから、僕は自信をもって答えたんです。たとえば今は使わなくても、小学校に入ってから再学習するにもいいものだと思うと。すると彼女は『わかった。買うわ』と。普通の人はもっと考えるし夫に相談してからじゃないとと悩むのに、即決は珍しい。彼女は『うちの夫は、結婚したくせに家庭に興味がないの。子どものことは全部私が決めてる』と。僕には普通の家庭のありようなんてわからないから、興味がなくても家に帰ってきて生活費をくれればいい夫なんじゃないですかと言ってしまった。彼女は笑っていましたね」
契約書を交わしながら、「あなた、お腹すいてない?」と彼女が言った。そういえば教材が売れなくて、今日は昼も食べていなかったと正直に答えると彼女は、さっと親子丼を作ってくれた。
「それがとんでもなくおいしかったんです。当時、ろくなものを食べていなかったからかとも思ったけどそうではない。うまいうまいとおかわりまでしてしまいました。彼女は笑いながら『気持ちのいい食べっぷりね』って目を細めていた。きれいな人だなあと思ったのを覚えています」
[1/2ページ]