やす子は「一発屋」になるのか 実は“芸人の消費”が起こりにくい現状とは

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必ずしも“仕事ゼロ”ではない「一発屋芸人」

 はっきり言ってしまうと、一発屋芸人と言われる人も、すぐに仕事がゼロになるわけではない。ピークのときよりも全国ネットのテレビに出る機会が減ると、世間では「消えた」と決めつけられがちだが、必ずしも仕事がなくなっているわけではない。その後も地方局の仕事や営業やライブなどでしぶとく生き残っている芸人の方が多く、それを「消えた」の一言で片付けるのは短絡的である。

 お笑い界では、ある時期に集中的に一発屋芸人と呼ばれる人がたくさん出てきたことがあった。それは、2000年代(2000~2009年)前半のお笑いブームの時代である。この頃には「エンタの神様」「爆笑レッドカーペット」といったネタ番組が人気を博していて、それらの番組から毎週のように人気者が輩出されていた。

 そのため、その中からのちに一発屋と呼ばれる人も続々と出てきていた。当時の芸人は今よりも一発屋になりやすかった。なぜなら、テレビの影響力が圧倒的に強く、YouTubeなどのほかのメディアが発達していなかったため、テレビに出なくなると終わりだと見なされていたからだ。

一発屋が以前よりも生まれにくい状況に

 しかも、当時は今よりもネタ番組以外のお笑い要素の多いバラエティ番組は少なかった。一発屋的な芸人はピンポイントでギャグやネタだけを求められることが多く、その人の性格や人格にスポットが当たることがなかった。

 今はテレビ以外のメディアもたくさんあるし、芸人もバラエティ番組で乱暴に扱われることが少なくなり、その人の個性に合わせた企画が用意されることが多くなっている。そんな現在の状況では、一昔前のように芸人がすぐに消費されて一発屋になる、ということは起こりにくいのではないか。

 もちろん将来のことは誰にもわからないが、現場での評価も高いやす子が、すぐに消えるとは考えられない。山根の危惧は、先輩芸人からの期待感の裏返しだと好意的に解釈するべきだろう。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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