作曲した宇崎竜童との共演をN響が拒否?…大河ドラマ「テーマ曲ベスト10」と作品ウラ話

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エレキギターとN響が共演

【番外その1】赤穂浪士/1964(昭和39)年、芥川也寸志作曲・指揮(演奏:コンセル・レニエ)

 第2作。かつて日本人が忠臣蔵をイメージする際、必ず脳裏に浮かぶほど知られた〈リピート型〉の名曲です。レコード化もされました。それがなぜ「番外」なのか?

 実はこの音楽は、オリジナルではないのです。芥川也寸志が以前に書いた、映画「たけくらべ」(五所平之助監督、1955)の音楽の、使いまわしなのです。タイトルバックや、ラスト、美登利(美空ひばり)が吉原に売られていくまでのシーンに、延々と流れました。

 さらにいえば、この曲は、その後「花のれん」(豊田四郎監督、1959)でも流用されているので、「赤穂浪士」は3回目のおつとめです。“敵陣”に乗り込む点ではどれも共通しているかもしれませんが、樋口一葉も山崎豊子も忠臣蔵も同じ音楽でやっつけてしまうとは! それほど芥川也寸志は多忙で、かつ、この曲に愛着もあったのでしょう。生涯に約100本の映画音楽を書いています。

 ちなみに、演奏している「コンセル・レニエ」とは、NHK専属の放送用オーケストラ「東京放送管弦楽団」の別名称です(N響とは別団体)。

【番外その2】獅子の時代/1980(昭和55)年、宇崎竜童作曲(坪能克裕編曲)、小松一彦指揮、演奏:ダウン・タウン・ファイティング・ブギウギ・バンド

 第18作。山田太一のオリジナル脚本で、明治維新を、勝者(薩摩藩士=加藤剛)と敗者(会津藩士=菅原文太)の双方の視点で描くユニークなドラマでした。

 内容もユニークなら、音楽も、大河史上最大のユニークさで、作曲は宇崎竜童(編曲の坪能克裕は、日本現代音楽協会会長もつとめたベテラン作曲家)。そして彼のエレキギターとN響を共演させることになりました。ところが、これが危機一髪の状況を招きます。詳細は〈春日太一書〉に詳しいのですが、要するにN響側がロック・バンドとの共演を拒否したのです。しかし何とか説き伏せて、「たまたまおなじスタジオに、バンドとN響がいた」との設定にして準備が進められました。

 ところが、本番当日、指揮者が来ない!(誰だったのか不明ですが、この年のN響正指揮者は、岩城宏之、外山雄三、森正の3人でした)。そこへ乗り出してくれたのが、当時N響の指揮研究員だった小松一彦(1947~2013)でした。彼の提案で、バンドとN響を別室スタジオに分け、個別に指揮・演奏し、あとで合成したのだそうです。

 このころN響は、すでに劇場用アニメ映画のサントラ「交響組曲/科学忍者隊ガッチャマン」(すぎやまこういち作曲・指揮、1978)でエレキやドラムスとは共演していたはずです。しかし、どうも宇崎竜童グループには、まだ抵抗感があったようです。

 なお、この危機を見事に乗り切った小松一彦は、翌年の第19作「おんな太閤記」(坂田晃一作曲、1981)、さらに第24作「いのち」(坂田晃一作曲、1986)の指揮もまかされるのです。

 というわけで、全12曲をご紹介しました。さすがに「昭和」を代表する作曲家と指揮者だけあり、すばらしい音楽ばかりです。平成・令和以降も、大河テーマ曲は、様々なドラマに彩られます(ちなみに本年の、冬野ユミ作曲「光る君へ」では、あの反田恭平がピアノを弾いています)。機会があれば、いずれ、それらもご紹介したいと思っています。

富樫鉄火(とがし・てっか)
昭和の香り漂う音楽ライター。吹奏楽、クラシックなどのほか、本、舞台、映画などエンタメ全般を執筆。東京佼成ウインドオーケストラ、シエナ・ウインド・オーケストラなどの解説も手がける。

デイリー新潮編集部

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