後から詞をつけて村田英雄が歌った曲も…昭和世代にはたまらない大河ドラマ「テーマ曲ベスト10」と作品ウラ話

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主演俳優と脚本家が相次いで途中降板した作品

(6)勝海舟/1974(昭和49)年、冨田勲作曲、岩城宏之指揮

 第12作。主役が病気で降板、第10話から交代(渡哲也→松方弘樹)。さらに脚本の倉本聰までもがスタッフと衝突して降板するなど、トラブル続きの作品でした。

 音楽は、冨田勲(1932~2016)。第1作「花の生涯」(1963)以来、これが4回目の登場です。このあと第21作「徳川家康」(1983)も書くので、計5回登場となり、後述する池辺晋一郎とならぶ最多登場記録。まさに大河ドラマの申し子のような作曲家です。

 このテーマ曲は、ポップスやジャズの雰囲気が感じられる、しゃれた音楽です。雄大で清潔感あふれる響きは、冨田の名曲「ジャングル大帝」(1965)や「マイティジャック」(1968)の延長。新時代を描写した“ミニ交響詩”のようです。冨田自身、後年に「勝海舟=渡哲也のイメージで作曲していたので、松方弘樹に慣れるまで、時間がかかった」との主旨の回想をしていますが、後半で合唱が流れる部分など、背筋を何かが走る素晴らしさです。

 冨田勲といえば、シンセサイザー音楽でしょう。この年、「月の光/ドビュッシーによるメルヘンの世界」をリリースし、全米ビルボード2位、日本人初のグラミー賞ノミネート。「勝海舟」の1974年は“世界のトミタ”への、第一歩の年だったのです。

(5)風と雲と虹と/1976(昭和51)年、山本直純作曲・指揮

 第14作。主人公は平将門(加藤剛)。現在までのところ、もっとも古い時代を描いた大河ドラマです(今年の『光る君へ』は西暦1000年前後。平将門は西暦900年代前半)。

 テーマ曲は、すでに国民的人気キャラクターだった山本直純(1932~2002)が初登場。チョコレートのCM「大きいことはいいことだ」や、映画「男はつらいよ」シリーズ、童謡《一年生になったら》、TV「オーケストラがやってきた」、さらには札幌オリンピック入場行進曲《白銀の栄光》(1972)まで、驚異的な幅の広さをもつ天才作曲家です。ここでは、指揮も担当。長い大河テーマ曲の歴史で、作曲とN響指揮を兼ねたのは、このひとだけです(2回目の登場、第26作「武田信玄」でも兼任)。

 大河テーマ曲には、《ボレロ》のようにひとつの旋律を繰り返しながら盛り上がる〈リピート型〉と、「急~緩~終結部」の〈三部構成型〉の2種類が多く見られます。本曲は、その〈リピート型〉の草分けで、現にここから3作連続で、大河テーマ曲は〈リピート型〉がつづくのです(よく〈リピート型〉は、第2作「赤穂浪士」が最初といわれますが、これについては後述します)。

 本曲は、琵琶や多くの和洋打楽器に導かれながら、勇壮な旋律がリピートされ、クレシェンド(次第に大きく)~転調し、頂点に達する……聴いていると元気が出てくる名曲です。

 なおこのテーマ曲は、本作の脚本家・福田善之による詞があとから付けられ、主演の加藤剛や、村田英雄が歌ってレコード化されました。それほどナオズミさんの旋律には、「ことば」で歌いたくなる力強さがあるのです。

(4)独眼竜政宗/1987(昭和62)年、池辺晋一郎作曲、岩城宏之指揮

 第25作。最終回の視聴率47.8%。大河史上最高記録の伝説的作品です。伊達政宗(渡辺謙)の生涯を、ジェームス三木(脚本)が波瀾万丈に活写しました。勝新太郎が秀吉を演じたほか、「梵天丸もかくありたい」が流行語になるなど、話題豊富なドラマでした。

 しかし、音楽にも驚かされました。冒頭から、オーケストラのバックで不思議な音が「ヒュ~ン」と鳴り響きます。電子楽器「オンド・マルトノ」です。1949年にバーンスタインの指揮で初演された、メシアン作曲《トゥーランガリラ交響曲》で使用され、有名になりました。しかし日本のTVドラマで、ここまで本格的に使用されたのは、これが初めてです。奏者は、この楽器の世界的権威、原田節。そして作曲は「絶対にオンド・マルトノを使いたかった」との念願を貫いた巨匠、池辺晋一郎(1943~)です。

 この曲は、力強い旋律と不協和音のぶつかり合いが見事でした。クライマックスで、ホルンに恐ろしく細かいパッセージが要求される“ホルン殺し”の難曲ですが、さすがN響、見事にこなしています。

 池辺は計5回、大河テーマ曲を書いており、この年が4回目です。初登場は、第16作「黄金の日日」(1978)。〈リピート型〉の名曲でした。電子音は、すでにNHK少年ドラマシリーズ「なぞの転校生」(1975)で使用しており、オンド・マルトノも、後年、第34作「八代将軍吉宗」(1995)で再使用しています。

 池辺は昨年、交響曲第11番を発表。傘寿(80歳)を迎えてなお、新しい響きを追う精神には頭が下がります。ダジャレ名人としても知られ、「オンド・マルトノは、音頭とるのに必要なんです」なんて言ってました(正確ではないかもしれませんが、おおむねこんな感じ)。

 さて、ここまでは優劣つけがたく、年代順に発表しました。いよいよ後編は、ほんとうの上位、昭和の大河テーマ曲「ベスト3」です。

富樫鉄火(とがし・てっか)
昭和の香り漂う音楽ライター。吹奏楽、クラシックなどのほか、本、舞台、映画などエンタメ全般を執筆。東京佼成ウインドオーケストラ、シエナ・ウインド・オーケストラなどの解説も手がける。

デイリー新潮編集部

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