後から詞をつけて村田英雄が歌った曲も…昭和世代にはたまらない大河ドラマ「テーマ曲ベスト10」と作品ウラ話
全63作中、4割強が昭和の作品
最近、NHK大河ドラマのテーマ曲コンサートが大人気だ。昨年だけでも、新日本フィル、名古屋フィル、富士山静岡交響楽団などが開催している。この3月9日には、本家・NHK交響楽団によるコンサートも予定されている。
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ところが、演奏曲目は、やはり近年の曲が多いようだ。たとえば、上記・富士山静岡響の場合、Webアンケートの上位10曲が演奏されたが、1位「真田丸」(2016年/平成28年、服部隆之作曲)以下、すべてが平成以降の作品だった。
しかし大河ドラマは、本年の「光る君へ」までの全63作中、26作が「昭和」時代の放映である(第27作「春日局」は、第2回以降、平成時代)。つまり4割強が、「昭和大河」なのだ。オールドファンとしては、そのころのテーマ曲が少ないのは、少々残念である。そこで今回は、大河ドラマ・テーマ曲の大ファン、音楽ライターの富樫鉄火さんに、あえて「昭和」の大河ドラマ26作だけを対象に、音楽の観点から、ベスト10を選んでもらった。
これらテーマ曲は、いまでは、CDやDVD、NHKオンデマンドなどで、比較的すぐに聴ける。YouTubeにアップされている音源も多いようだ。ぜひ、曲を聴きながら、熱い「昭和大河」の思い出に浸っていただきたい。ただし、さすがにこれだけの名曲と作曲家が並ぶと、順位付けは容易ではない。そこで、10位~4位は放映年代順とし、上位3曲を、音楽面での「ベスト3」としてもらった。さらに文末には、なぜか「番外」が2曲あるので、それもお楽しみに。
なお、本稿の一部は、『大河ドラマの黄金時代』(春日太一書、NHK出版新書)を参考にさせていただいた。文中では〈春日太一書〉として紹介している。また、2013年にリリースされたCD『坂本龍一選 音楽で楽しむ大河ドラマ』(NHKCD)からの引用もある。これは〈坂本龍一選CD〉とした。
N響が演奏した最初の作品は?
(10)太閤記/1965(昭和40)年、入野義朗作曲、外山雄三指揮
大河ドラマ第3作。無名の若手俳優3人を主役に抜擢(緒形拳=豊臣秀吉、高橋幸治=織田信長、石坂浩二=石田三成)。当時、石坂浩二は慶應大学の学生でした。第1回のオープニングが、前年開通の東海道新幹線が名古屋を疾走するシーンで、お茶の間を驚かせました。仕掛け人は、ドキュメンタリー出身の吉田直哉ディレクターです。
音楽面も画期的でした。初めてNHK交響楽団がテーマ曲を演奏。指揮は、N響世界一周ツアーを岩城宏之(1932~2006)と共に大成功させた外山雄三(1931~2023)。作曲は、現代音楽の最先端を行っていた入野義朗(1921~1980)。この年から、大河テーマ曲は、その時代を代表する作曲家と指揮者、N響の三者共演となるのです。その意味でも記念碑的なテーマ曲です。
入野義朗は、十二音技法などを駆使する現代音楽の旗手。いまでも「入野賞」「アジア作曲家連盟入野義朗記念賞」と、その名を冠した作曲賞が2つも開催されています。
この前年に、三島由紀夫原作の「獣の戯れ」(富本壮吉監督、若尾文子主演)なる“怪作”映画が公開されているのですが、その音楽が、この入野義朗です。オカルト一歩手前の超個性的な前衛音楽でした。しかし入野の映像音楽はたいへん少なく、この「太閤記」は貴重な楽曲です。てっきり前衛的な音楽かと思いきや、ホルンの勇壮な響きで始まる、往年のハリウッド西部劇風の大序曲です。
(9)三姉妹/1967(昭和42)年、佐藤勝作曲、外山雄三指揮
第5作にして、初めて架空の人物、しかも女性が主人公に。ある旗本家の三姉妹の視点で描く、徳川幕府の没落から明治維新まで。原作は大佛次郎の書き下ろし同時連載でしたが、途中で連載が追いつかなくなり、後半は鈴木尚之のオリジナル脚本です。長女=岡田茉莉子、次女=藤村志保と映画スターを起用。そして三女に俳優座の新人、22歳の栗原小巻が抜擢されました。この翌年、栗原小巻はチェーホフ「三人姉妹」で舞台に本格デビューしますが、そこでも“三女”を演じています。
激動の時代を見事に表現したテーマ曲は、生涯に500本以上の映画・TV音楽を書いた鉄人、佐藤勝(1928~1999)。このころすでに「用心棒」「椿三十郎」など黒澤明作品を中心に、高い評価を得ていました。この前年、フジテレビ「若者たち」の主題歌でメロディ・メーカーとしても人気を確立しています。
私は、「三姉妹」の音楽について、生前の佐藤勝さんに話を聞いたことがあります。「タイトルバックは、鳴門海峡だかの渦潮の映像でいくと聞いたので、そのイメージで書いたんですよ」とのことでした。たしかに渦潮を思わせる豪快な曲調です。ところが〈春日太一書〉によれば、スタッフが瀬戸内まで行って渦潮を撮影はしたものの、どうもイメージが違う……そこで、「奥多摩の渓流」をスローモーションで撮影した映像が使用されたそうです。ご本人は、そのことをご存じだったかどうか。なお佐藤勝は、1985(昭和60)年、「春の波涛」で二度目の大河音楽を書いています。
(8)樅ノ木は残った/1970(昭和45)年、依田光正作曲、岩城宏之指揮
第8作。大阪万博で日本中が沸き返った年、山本周五郎の同名小説が原作です。伊達騒動の“悪役”原田甲斐(平幹二朗)が、実は自分を犠牲にして藩を守った高潔な人物だとの意外な視点で話題となりました。
このドラマには、“伝説”があります。「オープニングの映像と音楽を、子供が怖がって困る」との抗議がNHKに殺到したというのです。暴風に揺れる竹林をバックに、次々あらわれる能面。そこへ、何やら切迫した深刻な音楽……当時、私は小学校6年生でしたが、たしかにゾッとしたのを覚えています。
この音楽が、依田光正(1927~1999)です。1967年度の朝ドラ「旅路」の音楽を担当し、一躍、その名を知られました。平岩弓枝脚本、日色ともゑ主演、北海道の国鉄職員一家を描くドラマで、最高視聴率56.9%を記録。これはいまでも、「おしん」(62.9%)に次ぐ、歴代第2位です。
ところが、「旅路」の、あの美しく素朴な曲想はどこへやら。この「樅ノ木~」は、太鼓類の不穏な打音、スラップスティック(ムチ)の非情な響き、ラストの不気味なアルト・フルートなど、ほとんどホラー映画です。ほんとうに「旅路」と同じ人が書いたのでしょうか。「並の時代劇じゃないぞ」とのスタッフの意気込みが伝わってくる、あまりに個性的な曲です。指揮は、4月に大阪万博開会式を指揮する、当時38歳の岩城宏之。これが初の大河テーマ曲の指揮でした。
依田光正は、中部日本放送の専属作曲家を経て、名古屋音楽大学の教授を長くつとめました。NHK学校音楽コンクール課題曲などのほか、ガムランを素材にした楽曲を多く書いています。
また、「樅ノ木~」は劇中音楽も素晴らしいものでした。六代目福原百之助(後の人間国宝、四代目寶山左衛門)による篠笛独奏曲《京の夜》が、画面に品格を与えていました。
(7)国盗り物語/1973(昭和48)年、林光作曲、森正指揮
第11作。大河テーマ曲史上、最高傑作との声もある名曲です。司馬遼太郎原作、斎藤道三(平幹二朗)と織田信長(高橋英樹)を中心とした戦国絵巻。中西龍アナウンサーの味わい深いナレーションも話題となりました。
音楽は、大河初登場の林光(1931~2012)。若いころから日本語オペラに取り組み、《あまんじゃくとうりこひめ》《セロ弾きのゴーシュ》などの傑作オペラを発表してきた作曲家です。
細かいパッセージで堂々と疾駆する第一主題の2回目、バックで、ホルンが激しい対旋律を奏でます。戦国の英傑たちがぶつかり合っているようで、まさにオペラの一場面です。林光は、1年間のドラマを2分半の音楽で見事に描いたのです。
私たちの血を騒がせた“熱血指揮”は、“モリショー”こと、森正(もり・ただし、1921~1987)です。フルート奏者から指揮に転向し、N響をはじめ日本中のオーケストラで大活躍しました。放送にも積極的に携わり、NHK教育テレビ(現Eテレ)の「フルート教室」講師もつとめた、戦後音楽界の大功労者です。大河テーマ曲も、計5回指揮しています。
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