熊大量出没の元凶は鹿だった! 「熊を駆除するだけじゃ意味がない」スゴ腕ハンターが解説

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「鹿が生息域を広げていることが問題」

 望月さんは「鹿がどんどん生息域を広げている。それが問題だよ」と自身の体験を交えて語った。

「たとえば、俺が小さい頃は、早川町には鹿はいなかったよ。当時、この辺の猪は脂がこんなにあった」

 そう言って親指と人差し指を広げた。その間隔は6、7センチくらいだ。

「本当にうまくてさ。で、小学校6年生の時、1979年だね、親父が初めて鹿を捕ってきた。俺が猟を始めた1988年ごろはまだ鹿を見ることはほとんどなかったけど、1990年代後半には普通にこの辺でも鹿が捕れるようになった。そこから鹿が急激に増えたよ。そしたらさ、猪の脂が昔の半分以下になったんだ。鹿は食欲旺盛だから、そこら中の草や芽や木の実を、猪のぶんまで食い尽くしてしまう」

 望月さんは「ちょっとこれ見て」と言い、3枚の写真を私に示した。

「これ、俺が解体した時に撮った熊、鹿、猪の胃袋の写真ね。比較のために置いたナイフは刃渡り16センチほど。熊は体重120キロある大きい個体だったな。鹿は70キロで大きめ、猪は65キロでやや小ぶり。並べると一目瞭然だけど、鹿は胃袋がこんなに大きいの」

農作物被害が最も多いのは鹿

 写真を見比べると、猪の胃袋が意外に小さい一方で、鹿の胃袋の大きさが際立つ。熊と鹿を比較しても、鹿のほうがやや大きく見えるほどだ。

 鹿は山のものだけでなく、人間が育てた農作物も食い荒らす。農林水産省が発表している「全国の野生鳥獣による農作物被害状況」というデータを見ると、2022年度の被害額約156億円のうち、鹿による被害が65億円と最も多く、次に被害額が多い猪の36億円に倍近い大差をつけている。ちなみに熊は4億円ほどだ。

 鹿は食欲のみならず、繁殖力も強い。

「熊って雑食でさ、木の実だけでなく草や葉っぱも食べるんだけど、そういうのまで鹿が食べ尽くすんだよ。鹿は繁殖力もあって、早ければ2歳のメスでも妊娠してどんどん子が増える。だからそれまで労せずエサにありつけていた他の動物がよそへ追いやられてしまうんだ」

木をダメにする鹿の問題行動

 望月さんは「それにさ」と言葉を継ぎ、東北で熊を山から追いやった“ブナ大凶作”の原因とも考えられる鹿の問題行動を指摘するのだった。

「落ち葉や、木の根元に生えた草や芽も全部食っちまうんだ。これが木に悪い。本来なら落ち葉や草が水分を含んで根や土壌を守っていたのに、こいつが無くなることで土が流れやすくなり、根っこがどんどん露出し、乾燥して、木が弱っていく。土と一緒に土壌の栄養分も流れていくから山がダメになる」

 森を守っている「下層植生」を鹿が食い尽くし、森が衰退する問題は、じつは全国で起こっており、林野庁も対策に取り組んでいる。

 2023年10月には、九州大学と岡山大学の共同研究グループが「椎葉(筆者注・宮崎県椎葉村)の奥山では、シカ増加に伴う土壌侵食により、ブナが衰退している」と、鹿こそがブナを弱らせている“犯人”だとする研究結果を発表した。

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