熊大量出没の元凶は鹿だった! 「熊を駆除するだけじゃ意味がない」スゴ腕ハンターが解説

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林業の衰退

 ここで考えなければならないのは、個体数が増えれば山の限られた食料は取り合いになること。食事にありつけない熊が食べ物を探し、人里へと出てくるのは自明の理だ。

「あと、林業が衰退したのが理由という地域もあるんじゃないかな」

 どういうことか。

「働いている人たちは山に入りっぱなしだったから、肉を食うためにワナを仕掛けて熊を捕って、みんなで食べていた地域もあったんだよ。それが、外材が安く入って林業が成り立たなくなって、結果的に熊を捕る人たちがいなくなったんだね」

東北ではブナの実が

 林野庁のデータによれば、林業従事者数は1980年には14万6000人いたが、2020年には4万4000人にまで減った。高齢化も進んでいる。

 さらにこう続けた。

「昨年の東北については、熊がよく食べるブナの実が大凶作だったというのが、熊が里に来る大きな原因になっているみたい。岩手にいる(猟師の)仲間に聞いたら、『家の近くの柿の木に4匹も5匹も熊が群がっているから、山の中に入らなくても簡単に捕れるよ』と言っていたよ」

 2023年の大凶作は、データが公開されている1989年以降で最悪の記録だ。

 林野庁の東北森林管理局が発表している「ブナ開花・結実調査」によれば、2023年の東北5県はすべて「大凶作」。中でも岩手県と宮城県は豊凶指数が0.0。計30の調査地点のうち一つを除いてすべて「非結実=まったく種子がならない」状態だった。

 残りの青森、秋田、山形3県は豊凶指数0.1だ。豊凶指数1にあたる「一部=ごくわずかな種子がつく」状態の地点がいくつかあっただけで、昨秋は東北5県から熊の主食の一つがほぼ消え去ったことがわかる。

 とはいえ、大凶作の年は過去に何度もあった。2016年も昨年に近い豊凶指数を記録しており、岩手、宮城が0.0。秋田、山形が0.1、青森は0.5だった。

 ではその年、2016年の人的被害はどうだったのだろうか?

16年と23年で何が違う?

 ここで興味深いことが明らかになる。

 環境省が発表する「クマ類による人身被害について[速報値]」というデータによれば、2016年度の被害人数は青森0、岩手19、宮城6、秋田19、山形2、全国で計105人。死亡者は全国で秋田の4人のみだった。

 これが2023年度は12月末時点で青森11、岩手49、宮城3、秋田70、山形5、全国で計217人の被害。死亡者数は岩手が2で東北の残り4県は0。全国で計6人となっている。

 16年と23年を比べると、ともに東北でブナの実は大凶作、豊凶指数も近い数字だったのに、後者では人の被害が3倍、全国でもほぼ倍に増えているのである。

 16年と23年で何が違うのか?

 いったい何が熊を山から人の住む場所へと向かわせているのか?

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