ソフトバンク・山川穂高は「やっぱり凄いですよ…」 敵情視察したライバル球団の「007」は“困惑の色”を隠せなかった
フリー打撃で“柵越え”連発
何となくの印象だったが、山川穂高の周りには、分厚く、冷たい氷の壁のようなものがあるように感じていた。女性問題での不祥事が絡んだ「背番号25」に注がれる目は、どうしても、厳しいものになってしまう。FA権を行使して移籍してきたソフトバンクで、もし期待通りに打てなかったら……。それこそ、外野からの風当りはさらに強くなるだろう。
【写真】宮崎での春季キャンプに臨むソフトバンクの選手たち。誰もが真剣な表情を浮かべる
一体、大丈夫なんだろうか……。メンタルは、耐えられるのだろうか?
そんな先入観が、つい先走ってしまっていた。宮崎入りする前の、取材側の一人としてのそれが正直な思いでもあった。
しかし、山川穂高というバットマンは、そんなにヤワではなかった。
西武時代の2018年にパ・リーグMVP、本塁打王は3度、昨季は0本塁打ながら、プロ10年ですでに通算218本塁打。年平均でも20発以上を放っているのだから、それこそ、本物の和製大砲だ。そこらの並みのバッターとは、積み上げてきた実績も段違いだ。
その現役最高峰と言ってもいいスラッガーが、持てるパワーで観客を魅了したのは、宮崎キャンプ3日目の2月3日のことだった。
雨上がりのメーングラウンドで、今キャンプの屋外での初フリー打撃は、46スイング中13発をスタンドインさせた。4連発に、場外弾も2発。高い放物線を描く打球は、ここ数年、ソフトバンクの右打者では見られなかった弾道だった。
“原石”を発掘し、育て上げる“王イズム”
「あれだけね、角度をつけられる技術を持っているんだよ」
そううなったのは、王貞治球団会長だった。通算868本塁打の「世界のキング」は、83歳の今も背中に白抜きの『OH』のロゴが入った黒のグラウンドコートを着て、グラウンドに立ち続け、若き後輩たちにも熱心にアドバイスを送る。
その王が、山川の一挙手一投足を、ケージの左サイドからじっと見つめていた。球の速いピッチャーと、飛距離が出るバッターに関しては「これは天性なんだよ」というのが監督時代からの持論。そうした“原石”を発掘し、育て上げるのも王イズムで、その傑作品ともいえるのが柳田悠岐であり、千賀滉大(現ニューヨーク・メッツ)であり、もっとさかのぼれば現監督の小久保裕紀、球団会長付特別アドバイザー兼シニアコーディネーターの城島健司であり、今季から4軍監督を務めるかつてのエース・斉藤和巳だろう。
そのホークスの“歴史の系譜”に連なっていくことになるであろう山川が見せた高い技術と圧倒的な飛距離に、打球がスタンドインするたびにスタンドからは「おーっ」という歓声が漏れた。
打撃練習を終え、バッティングケージを出た山川に対し、大きな拍手が降り注いだ。
己の力で球場の空気を一変させる。これがスターなのだ。山川を包んでいるかのように見えた“氷の壁”が、ファンの発する熱気で、すっと溶けていくような気がした。
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