都会の人はすぐ「村八分だ!」と言うけれど… 田舎の人間が土地、コミュニティーに執着せざるを得ない事情とは(中川淳一郎)

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 1月25日の共同通信電子版に「避難所のうそ、今も罪悪感 『逃げた』自主避難の男性」という記事がありました。要約すると、能登半島地震の被災地・石川県珠洲市で避難所生活をしていた男性(72)が、「片付けもあるので、いったん家に戻ります」ととっさにうそをついて金沢のホテルへ2次避難したことを後悔するというもの。男性は自分が裏切り者なのでは、と考えてしまうのだといいます。

 都会の人はこの話を聞いて「別にそんなの自由じゃん。お金払ってホテル泊まって何が悪いの?」「つーか、そもそもその土地に執着する理由が分からない。引っ越せば?」と思うことでしょう。

 しかしながらこれはそうも言っていられない事情があると、佐賀県唐津市という地方在住の私は思うのです。地元意識がある地方では、何か問題があるとそこに住む人総出で助け合う文化があります。それこそ徘徊老人が行方不明になったら、消防団が仕事を休んででも探しに行ったりする。

 珠洲市の男性の後悔にしても、ある程度落ち着いたら皆で復興に向けて汗水を流したり、行政から補助金を獲得すべく動く、といった「村の掟」を破ってしまったとの思いに起因しているのではないでしょうか。

 近年移住者が町内会に入るのを拒否し、ゴミ収集所を使えない、といったトラブルが報じられることがあります。このような場合、ネット上ではすぐに「村八分だ!」「田舎の閉鎖性と陰湿さを示す例だ!」と批判が殺到します。

 これは「職場」と捉えると理解できるんですよ。要するに、地方の集落や商店街や「同じ町」の住人は、共同体かつ利害関係者なんです。「仕事とプライベートは分けたい」という考え方はあるものの、地方の人間関係は「プライベートだけど仕事」という意味合いのものが非常に多いのです。

 だからこそ、一度でも仲間を裏切るようなことをしてしまったらそれは永遠に残る汚点となります。「あいつはあの洪水の時、いち早く逃げ出したが、復旧してからのうのうと戻ってきたな。ワシらがどれだけ毎日暑い中土砂撤去の作業をしたか分かっておらんのか」なんてことを思われるのです。

 もしも「この土地とは縁を切る!」と決めたのであれば、そこを離れてもいいですが、実際その土地で農家を営んでいたりするわけですね。となると、地元の人との円滑な関係性は必須になる。会社でもそうですよね。経営不振の会社がなんとか最後の金策と営業ルート開拓に全身全霊を傾けている時に「ちょっとしばらく海外視察に行ってきます!」なんていう従業員がいた場合、そいつは会社が立て直された後、白い目で見られるに決まっている。

 地方のコミュニティーってのはまさにソレなんですよ。だから冒頭の72歳男性にしても、自責の念があった。とはいってももう避難所生活が耐えられなかったんですよね。それもよーく理解できる。

 日本という国は皆が同じテレビ番組を見て、共通体験が多いと思われがちですが、実際は「都会vs田舎」というものがあります。むしろ東京人はニューヨークやロンドンの人の考え方のほうが理解できるのかもしれません。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年2月15日号掲載

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