「ダルビッシュ有」も問題視…日本のプロ野球のコーチはなぜ米国より遅れている? 「選手がYouTuberを重視して、コーチの言うことを聞かない」というケースも

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最新の情報や指導法をアップデートしないコーチも

 コーチングの大前提は、必要な答えは本人(野球であれば選手)の中にあり、コミュニケーションは双方向であるということなのだ。日本の場合は、コーチ自身の考えを一方的に伝えていることが多く、本来の意味合いともずれているのである。

 もちろん、コーチの考えで上手くいくケースがある一方で、上手くいかないケースの場合は「センスがない」、「努力が足らない」といった言葉で片づけられる。これはプロ野球に限らず、日本のスポーツ指導全体でも見られることだ。さらに、ダルビッシュが指摘しているように、自分の経験や古い知識に頼り、最新の情報や指導法をアップデートしないまま指導しているコーチもいる。

「もちろん、コーチの中には熱心にいろんなことを勉強している方もいますが、そうではない人もたくさんいるように感じます。中には、数字やデータを拒絶して『俺はそういう分野にタッチしないから』と堂々と言う方もいますね……。指導者の全員が全員、細かいデータに精通している必要はないのかもしれません。ですけど、コーチと選手の間に“共通言語”がないと指導も噛み合いませんよね。選手も『なぜ、こんな練習をする必要があるんだろう……』と疑問を感じながら、練習をやっていては効果が出ません。これまで感覚や経験だけで済まされていたものが、次第にそれだけでは納得できない選手も増えてきています。指導者側のレベルアップが必要です。特に、若い選手を引き上げる必要がある、ファームの指導者は、こうした人材が求められると思います」(セ・リーグ球団の関係者)

 キャンプの練習風景を見ていても、投手の投げるボールや打者の打球を計測しながら行うのが一般的になっており、アナリストの肩書を持ったスタッフが増えている。古い体質の指導者は、徐々に淘汰される可能性が高くなりそうだ。

「学ぶことを辞めた時がコーチを辞める時」

 問題は決して指導者だけではなく、選手側の方にあるケースもあるという。前出のセ・リーグ球団の関係者が続ける。

「選手がデータばかりに頼って上手くいかないこともありますね。練習で(球速、回転数、打球速度などの)良い数字が出ることばかりを追い求めて、肝心の結果に繋がらないことも珍しくはありません。野球は相手のいるスポーツですから、練習のデータだけ良くても意味がないですよね……。『投げているボールやフォームが相手にどう見えているのか』、『相手の投げてくるボールをどう打つか』。こうした感覚的な部分は、やはり無視できません。また、技術や実戦的な動きを身につけるためには、反復練習が必要になります。それをこなす体力をつけるために、ランニングなどで持久力を養うことも重要です。それにもかかわらず、プロの世界で成功している選手が、長い距離を走る練習は野球に“直接”必要ないと言っているのを鵜呑みにして、そもそもの練習量が足りていない選手もいますね」(同)

 選手が得ることができる情報量は、以前とは比べ物にならないほど増えている。中には特定の数字だけを切り取ってスキルアップと考えて、肝心なプレー全体のレベルアップに繋がっていないケースがあるようだ。プロのコーチからも「選手がYouTubeばかり参考にして自分の言うことを聞かない。そのYouTubeで指導しているのは、選手経験のない素人ということもある」と嘆く声も聞こえているという。

 しかしながら、これだけ情報が増えている時代だからこそ、コーチの技量が問われていることも確かではないだろうか。指導者側が知らない情報を頭ごなしに否定するのは簡単なことだが、それで納得する選手は確実に減っているはずだ。そうではなく、ともに学びながら、よりよい方法を探っていく姿勢が重要である。

 かつて、ロッテやメジャー・リーグのメッツなどでコーチを務めた立花龍司氏に話を聞いた時も「学ぶことを辞めた時がコーチを辞める時」と話していたが、これからの時代のコーチには、より、どん欲に学ぶ姿勢が強く求められることになりそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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