「ダルビッシュ有」も問題視…日本のプロ野球のコーチはなぜ米国より遅れている? 「選手がYouTuberを重視して、コーチの言うことを聞かない」というケースも
「日本の一部のコーチは勉強不足に映る」
プロ野球の春季キャンプは、中盤に差し掛かっている。各球団はシーズンに向けての準備を行っているが、この時期に決まって話題となるのが、練習内容だ。最近は、科学的な数値をとりながら行うことも増えているが、いまだに古くから行われているからという理由や、監督やコーチの経験をもとに取り入れられている練習があり、その効果に対して疑問の声が出ることも少なくない。もちろん、一部の映像だけを切り取って判断することはできないものの、非効率的な練習は残っている。【西尾典文/野球ライター】
【写真】侍ジャパンのユニフォーム姿のダルビッシュ。身長174cmの栗山英樹監督(当時)とは頭ひとつ分の身長差…どんな場面でもとにかく「絵になる」
練習法と関連して、コーチの指導力が米国に比べて遅れているという指摘も目立っている。今年1月、ダルビッシュ有(カブス)がサンケイスポーツの取材に対して「アメリカのコーチと比べると、日本の一部のコーチは勉強不足に映る」と発言したことが大きな反響を呼んだ。また、2022年から2年間レンジャーズにコーチ留学し、今年からソフトバンクに復帰した倉野信次一軍チーフ投手コーチ兼ヘッドコーディネーターは「メジャーに比べて日本のコーチングが遅れていることを実感した」と語っている。
日本のプロ野球界では、現役を引退してすぐに指導者となることも珍しくなく、どうしても自身の経験だけで指導してしまうケースが多くなる。一方、ロッテの吉井理人監督は筑波大学大学院でコーチング理論を専攻したほか、ソフトバンクの工藤公康元監督は、同大学院でスポーツ医学を学んでいる。こうした指導者が増えつつあるが、依然として少数派だ。
“罰走”に対する苦言
日本と米国の大きな違いは、“コーチという役割”の認識である。日本は、とにかく選手に対して「教えること」と「管理すること」がメインで、指導者が選手より上という意識が強い。それに対して、米国のコーチの役割は、あくまで選手が困った時に手を差し伸べることで、選手との立場は“対等”と言われている。
よく例として聞く話が、選手がミスを犯したケース。日本では、ミスに対する懲罰として“罰走”と呼ばれるランニングを課して、コーチから選手に怒声が飛ぶことも珍しくない。
“罰走”といえば、2020年の出来事が想起される。当時、巨人の2軍を指揮していた阿部慎之助監督が、同年3月に行われたプロ・アマ交流戦の早稲田大戦に6対9で敗戦した後、全選手に両翼のポール間を走るメニューを課した。これに対して、ダルビッシュ有や野球解説者の高木豊氏らが苦言を呈したほか、トレーニングの専門家からも否定的な声が相次いだ。
一方、米国では、ミスを犯した原因を選手とコーチが一緒に考えて、ミスをなくすことを目的とした練習を行うことが一般的である。米国でのプレーを経験した日本人選手は、口を揃えてメジャーのコーチは自ら教えるわけではなく、選手に聞かれた時にアドバイスするスタンスだと語っている。
なぜ、日米でこのような違いが生まれるのか――。
その原因は、日本では、そもそも“コーチング”がどんなものかを学ばずに指導者になるケースが多いことではないだろうか。
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