【朝日杯】藤井聡太八冠が敗れる 勝った永瀬拓矢九段が色紙に「聡」と書いた意味
珍しい将棋
大変だったのは大盤解説場で解説していた日本将棋連盟前会長の佐藤康光九段(54)である。持ち時間が長いタイトル戦での大盤解説なら解説者は交代したり休憩したりするが、朝日杯は早指しなので対局中に解説を中断するわけにはいかない。「竜がいらっしゃったんですね。忘れていました」などとおっとりとした語りで会場を笑わせていた聞き役の安食総子女流二段(49)を相手に必死に解説を続けた。
佐藤九段が「入玉宣言で決まることもありますが、宣言したケースは1局くらいしか知らないですね」と話すなど、相当珍しい将棋になりかけていた。入玉は普通、乱戦模様の将棋で起きやすいが、一方の玉ががっちりと穴熊で囲われたままで全く崩れていないのに、一方が早々に入玉しているというのも珍しかった。
双方が入玉すると持ち駒の点数で競われることになる。王と玉に点はなく、角と飛車は各5点。その他の駒を1点とし、合計が31点以上なら勝ち、24点未満なら負け。双方が24点以上、30点未満なら引き分けで、両者の合意で「持将棋」となり先手と後手を交代して指し直す。
入玉宣言法とは、双方が入玉しても持将棋への合意が得られないような時、優勢な側が宣言して対局を終了させ、決着を付けられるルールである。宣言側が31点に満たなかった場合は負けになり、適用される条件はかなり複雑である。
219手で投了
点数計算による勝負になるかとも思えたが、途中、永瀬が竜や馬を使って遠くから自陣の敵玉を狙う。「詰ませる方針に変えたようですね」と佐藤九段。
しかし、永瀬は再びその方針を変え、がっちり囲んでいたはずの穴熊に出口を作って自玉も相手陣に入玉し、点数計算で勝つ戦法に戻す。
結局、219手という大熱戦となり、大駒を多く持っていた永瀬に点数で勝てないと観念した西田が投了、決勝のスタート時間を遅らせて無事に対局を終えた。
準決勝について永瀬は「300手でもおかしくないと思っていました。219手なら体感として少ないかと思いました」と話してお客さんを驚かせた。敗れた西田は「どこで投げれば(投了すれば)いいのかタイミングがわからなくて長くしてしまった」と恐縮していた。
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