「いろんな人とすぐに出会える」婚活ゆえの落とし穴は 「日本一婚活してきた」ライターが語る

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 テレビではドラマ「婚活1000本ノック」が始まり、また「真面目な出会いの場」を強調する婚活アプリのCMも大量に流されるなど、かつてはキワモノ的に見られていた婚活ビジネスへの風向きはかなり変わってきたといえそうだ。

 ユーザーから見た場合、アプリに代表される婚活サービスはどのような利点があるのか。落とし穴はないのか。

 これまで婚活で300人以上とデートしてきた(が、ゴールインできなかった)と語るのはライターの石神賢介氏。お相手には女優、CAさんと「華やか」な女性も珍しくはなかったそうだが、その反面……「日本一婚活をしてきた」と自負するライターが婚活の光と影をつづる。

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「婚活1000本ノック」のリアル

 フジテレビ系でドラマ「婚活1000本ノック」がスタートした。主演はお笑いトリオ、3時のヒロインの福田麻貴。原作者は作家の南綾子さん。南さん本人が主人公という趣向の婚活物語だ。

 ドラマ第1話の前半、33歳の作家、綾子は婚活することを「必死過ぎてみっともない」とバカにする。しかし、モテないのにプライドが高いことを同業者である美人作家に「婚活をバカにするあんたはブス」と罵倒されたこともあって改心。

「私は一人はいや。誰かと一緒に生きたい。誰かを愛したい。誰かに愛されたい」

「私、結婚する。そのために婚活する」

 そう決心。結婚相手をゲットするための悪戦苦闘が始まる――という展開だ。南さんの体験が盛り込まれているだけに、原作はとてもリアルな描写が多かったと記憶している。

 この後のドラマ内でもきっと経験者たちが「あるある」と思うエピソードが出てくるのだろう。

婚活アプリがメインストリームになった

 日本ではずっと学校の友人関係、仕事関係、知り合いの紹介が出会いの三大スタンダードだった。婚活アプリ、婚活パーティー、結婚相談所などサービスを用いる“婚活村”はモテない男女の巣窟だというイメージが強かった。

 しかし、2010年代以降社会の認識は変わった。アプリなどのサービスを用いた婚活は出会いのメインストリームになった。いまや夫婦の22.6%、つまり5組に1組以上がアプリで出会っている(2022年11月、明治安田生命調査)。

 誰もがスマホを持ち、アプリによって手軽にパートナーを探せるようになった。同時に出会いは、距離、職業、学歴、経済力の壁を越えた。かつて接点の持てなかった北海道の男性と九州の女性もかんたんに交流できる。

 例えば医師と会社員、アイドルと公務員も出会える。タレントの新山千春やアナウンサーの鷲見玲奈やモデルの梅宮アンナなどは、テレビ番組でマッチングアプリを利用していると発言。しかも、新山はアプリで出会った相手と成婚した。

300人以上とデートしてみて

 恥ずかしながら、筆者はおそらく日本の誰よりも婚活を行ってきた人間ではないかと思っている。

 この20年以上で、婚活アプリ、結婚相談所、婚活パーティー、婚活バスツアー、婚活ハイキング、婚活料理教室、婚活座禅などを実践。300人を超える女性と食事やドライブに行き、温泉や海外リゾートにも出かけた。親密になった女性の職業のバリエーションも豊富だ。もっとも多いのは会社員だが、女優、モデル、シンガーソングライター、CA、ドクター、看護師、ナレーター、お茶の先生、銀座のホステス……それなりの関係に至った人数も少なくない。

 真剣な交際にはいたらなかったが、メジャー劇団の主演女優やVシネマの主演女優やアナウンサーとも出会えた。そんな現実の悪戦苦闘は『婚活したらすごかった』『57歳で婚活したらすごかった』(どちらも新潮新書)にありのまま書いた。

婚活とは営業である

 言いたくはないが、筆者は不細工だ。頭がでかい。手足は短い。身長は160センチ台。頭髪も少なくなった。離婚歴あり。フリーランスのライターなので収入は不安定。しかも、還暦を過ぎた。60代になったら一人で生きるしかないと覚悟していた。しかし、婚活ツールを利用してまだ異性と出会えている(相手の年齢も上がった)。

 男性が成果を上げるもっとも重要なポイントは、機会を多く持つことだろう。つまり、たくさんの女性にアプローチする。考え方としては、営業職に近い。分母を増やせば、結果的に分子も増える。

 年収3000万円超え、あるいは俳優レベルのイケメンでない限り、1カ月に5人、10人くらいにアプローチをしても、たいがいは全員に断られる。しかし、たとえ自分の容姿が低レベルでも、1カ月に100人以上にアプローチすれば、そのうち何人かは返事をくれる。人の好みはいろいろだ。そして会えれば、なにかが起こるかもしれない。だから対面できたら、押す。ときどき引いてみる。誠意を持ち相手の話を聞く努力を重ねていく。

 もちろん細かい努力は必要だ。

 男性でも女性でもアプリの自分のプロフィールは具体的に書いたほうがいい、笑顔で清潔感のある服装の写真を掲載することが大切、うそをついてはいけないし、すぐにホテルに誘わない……などは基本的な注意点である。

 こんなふうに書くと、でもお前は結婚できていないじゃないか、と突っ込まれそうだ。確かにご指摘のとおり。筆者は結婚できていない。なぜだ?

見た目に惹かれるという病

 ここが弱点だと自覚しているが、アプリで女性の写真を眺めると、ついきれいな人に申し込んでしまう。これがいけない。

 男女とも容姿がハイレベルなのにシングルでいるには、なにかしら理由があるものだ。容姿に恵まれ、人柄もよく、生活も健全で、婚歴もなく、お金を持っているような完璧君、完璧さんなど、“婚活市場”にはいない。申し込んできた相手がはるかに年下でいわゆるイケメンの場合、ナンパ、既婚者、物販や金融商品の営業、宗教勧誘、詐欺、DV、パワハラ、モラハラ、借金などを警戒するべきだ(ドラマでも、主人公がアプローチしてきたイケメンに対して、セールスではないかと疑う場面があったが、あれは正しい姿勢である)。

 相手がはるかに年下でスタイルのいい美女の場合、物販や金融商品の営業、宗教の勧誘、詐欺、おねだり体質を警戒するべきだ。

 実際にこんな体験があった。アプリを通し美しい10歳以上年下の銀座の元ホステスと親しくなった。彼女には婚歴があり、成人した息子がいた。そんなことはもちろん許容範囲だ。こちらだって威張れるプロフィールではない。オレにもついにいい出会いが訪れた!と思った。しかし、甘かった。口説きに口説いてようやくお泊まりにこぎ着けたら、行為の後、彼女が裸のままお経を唱え始めた。

 新興宗教の熱心な信者で幹部だった。彼女に悪気はない。

 しかし話を聞くと、献金をはじめ受け入れ難いことがいくつもあった。

CAは特殊な人だった

 前述の拙著に書いたが、CAからアプローチしてもらったこともある。美しく積極的な女性で、その日に東京・青山で食事をして意気投合。帰路ホテルに誘われた。筆者は有頂天。まあ今思うと、ちょっと変な感じはあった。ましなシティホテルを予約しようとする筆者を制し、連れて行かれたのは中央線沿いのボロボロのホテル。

 彼女には特殊な性癖があった。なので、さまざまな行為をテストされた。指示されて、彼女の体をかびの匂いがきついカーペットの上で引きずりまわした。清潔ではないホテルのほうが燃えるらしい。レクチャーを受け、生まれて初めて言葉攻めもやった。しかし、筆者はノーマル。

 頭のなかで自分を励まして頑張った。もはや労役だった。

 おねだり系もけっこういた。スーツやブーツや財布も買わされた。彼女たちとは手もつなげなかった。そんな苦い体験を重ね、心はタフになり、きれいな女性とアプリでマッチングすると警戒するようになった。それでもときどきつい魔がさして、美しい女性にアプローチしてしまう。

 自分にとってすべてにおいて好条件の相手などいない。自我が育ち切った40代以上は、シングルであるなにかしらの理由があって婚活市場で生息している。それは頭では分かっている。なのに、もっともっとと理想を求めてしまう。

 存在しない相手を探してしまう。

出会いやすさが別れやすさに

 成婚できないことには、もう一つ大きな原因を感じている。婚活、とくに婚活アプリを利用すると、かなりの確率で出会える。その“出会えること”が、実は落とし穴なのだ。

 100%理想の存在などいないわけだから、交際を重ねるうちに一つニつは相手の中に小さな気に入らないなにかを見つける。

 すると、交際をやめてしまうのだ。

 執着しないと言えば聞こえはいいのだが、理解し歩み寄る努力を続けない。アプリでまた次を探せばいいかあー、と考えてしまう。

 実際にアプリでまた出会える。しかし、次の相手にも執着しない。気に入らない点を見つけると、別れてしまう。また探す。こうして婚活の負のスパイラルに飲み込まれる。“婚活アリ地獄”だ。これにはまった男女が永遠に婚活を続け、アプリ会社やパーティー会社の売り上げに貢献する。それが、今この記事を書いている筆者だ。

 積極的に婚活を行えば、出会える。しかし、婚活アプリや婚活パーティーは、正しく利用できなくては、負のスパイラルにはまる。数多く積極的にアプローチし、自我を捨て、歩み寄る努力を怠らず、自分を過大評価せず、婚活で成果を上げていただきたい。

石神賢介(いしがみ・けんすけ)
婚活ジャーナリスト。1962年東京都生まれ。婚活アプリ、結婚相談所、婚活パーティー、婚活バスツアー、婚活ハイキング、婚活料理教室、婚活座禅など、ありとあらゆる婚活にトライ。300人以上の女性と交流する。『婚活したらすごかった』『57歳で婚活したらすごかった』をはじめ著書多数。

デイリー新潮編集部

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