不老不死は実現できる? 日本がリードする「老化細胞除去薬」の最前線

ドクター新潮 ライフ

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人間の最長寿命は…

 そこで私は、研究の最前線にいるノーベル賞級の科学者たちに話を聞くことで、現時点での確からしい老化予防や老化改善の情報を得たいと考えた。人は何歳まで生きられるのか。不老不死は実現できるのか。そんな思いから『老化は治療できるか』(文春新書)をまとめ、昨年11月に出版した。それは図らずも、「老化の哲学」を巡る思索の旅ともなった。

 そもそも現状で人は何歳まで生きられるのだろうか。高齢化に伴い最長寿命も延びているように思えるが、16年に英科学誌ネイチャーに掲載された論文によれば、世界40カ国以上の統計データから最長寿命は1990年代に頭打ちになったという。その上で、今のところ人間の最長寿命は115歳と結論付けられている。実際に、記録が残っている中で最も長く生きた人類は97年に亡くなったフランス人女性のジャンヌ・カルマンさん122歳である。この人物でさえ、娘が母親と入れ替わったのではないかという疑惑が噴出したこともある。

 それゆえに、実は最長寿命はそれほど延びないのではないかと考える科学者たちもいる。一方で、それはこれまでの科学や医学をもってしての話であり、今後の科学の発展によっては最長寿命も長くなるだろうという見方も存在する。

 実際に、最先端の研究現場を訪ねてみると、動物の寿命が延びたり、若返ったりする物質が見つかっていることがわかった。

日本の研究者が世界をリード

 例えば、注目されているのが老化細胞除去薬だ。まず老化細胞について知っておくべきは、加齢だけではなく、紫外線や放射線でDNAが傷つくことや、酸化ストレスによっても生じることだ。老化細胞が体内に蓄積されると慢性炎症が引き起こされ、体全体の老化の進み具合は早まる。

 実はこの老化細胞の研究は日本の研究者が世界をリードしている。東京大学医科学研究所所長の中西真教授は老化細胞研究の第一人者の一人である。中西教授の研究チームは老化細胞の生存に必要な酵素の一つGLS1(グルタミナーゼ1)を発見した。GLS1はアミノ酸の一種であるグルタミンをグルタミン酸に変える性質を持ち、この過程でアンモニアが作られる。これまでそのアンモニアは細胞の機能に不必要な「ごみ」だと思われていたが、実はこれこそが老化細胞の生存に必要なものだと中西教授は説明する。つまりアンモニアが生成される過程をブロックすれば、老化細胞は死んでいくというのだ。

 実際、マウスにGLS1阻害薬を注射すると、老化細胞が除去され、慢性炎症が抑え込まれた。結果、老化に伴って起こるさまざまな臓器などの機能低下、さらに高齢期の筋力低下も改善した。この実験の成果で注目すべきは、すでに老化したマウスの機能が回復したところにある。これは「老化予防というより、老化改善。つまり年を取ったあとでも効果があるということだ」と中西教授は話す。

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