「これでまた将来、殺人ができるぜぇ!」 “柏市連続通り魔事件”公判で尾崎豊の「15の夜」を歌い上げ、チャット仲間に凄んだ被告の叫び

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「“テロ行為”の準備資金をつくるため」

 この日、竹井はなぜタンクトップで現れたのか。仕切り直された裁判で証人として呼ばれていたのは、かつての“チャット友達”だった。竹井は“JoAKU 除悪”の名で「ニコ生」に動画を配信していたほか、連行時に叫んでいたように、「ヤフーチャット」にも出没していた。初公判の弁護側冒頭陳述で弁護人は、一連の犯行の動機が「“テロ行為”の準備資金をつくるため」であり、そこにインターネット空間の関係性も大きく影響していたという主張を繰り広げた。

「犯行に及んだ動機は2つあります。ひとつは生活費のほか、バスジャックの後、ハイジャックをしてスカイツリーに突っ込むための準備資金にすること。もうひとつはネットに依存していた生活のため、チャット仲間に存在を誇示するため、何か大きな事を今やらなければ、と思ったことです。幼少期から竹井さんは人間関係を築くことが上手くなく、中学校の頃は友人がいませんでした。自身の存在を示し、寂しさを打ち消せるのがインターネット空間でした……」(弁護側冒頭陳述)

 寂しさを紛らわせるためか「ネット仲間にハイジャックの話をすることで注目を集めようとしたのに、かえってチャット仲間から浮いた存在に」(同)なってしまい、仲間から冷遇されることを恐れて犯行に及んだ、というのが弁護側の主張だった。

 竹井がタンクトップになった日に、証人出廷したチャット友達、ハンドルネーム“六文銭(rokumonsen)”は、事件から3~4年前、ヤフーチャットの「喧嘩部屋」というルームで知り合ったという。衝立の奥からこう語った。

「被告は、過去の悪行自慢、武器の話、違法薬物や動物虐待の話をしていました。中学校の頃、人を刺して少年院に入ったとか、ハムスターをトーストしたとか、猫に火をつけたり、鳥を殺害したりしたと聞きました。映像でも観ました。鳥の虐待です。事件の前の年の秋ぐらいだと思います。盗んできた鳥をナイフで刺し殺す映像でした。

 あとは、チャットのときにバタフライナイフやエアガンを、いつもカチャカチャいわせながら手に持っていて、たまにカメラで見せていました。あとは酒鬼薔薇聖斗を崇拝している、と。こうした話が武勇伝として通じる場所でした」

判決を聞くや、両手を高く掲げて拍手

「喧嘩部屋」で知り合い、悪行自慢をしていた相手に自分を大きく見せるためのタンクトップだったのか。午前中の竹井は“六文銭”に対して両肩の刺青あらわに睨みを利かせていたが、法廷の冷房が強かったためか、午後にはチェックのシャツを羽織っていた。そして翌日以降の公判では再び当初のスーツ姿に戻り、こんなことを語った。

「悪ぶってみたけれど、心の奥底にある小さな何かが違うと訴えている、ちゃんと謝罪して死刑になって“除悪”という名を残し、いじめや差別の撲滅に貢献したい」

 ところが判決の日。法廷奥のドアが開くと、タンクトップ姿の竹井が、オウム真理教の「麻原彰晃マーチ」を歌いながら入廷してきた。裁判長をはじめ、前回はぼんやりと眺めるだけだった弁護人も今回はさすがに制止するが、無視して次の曲へ。

「行儀よ~く真面目なんて出来やしなかった~」

 抑揚なく「この支配からのっ…卒業~」まで歌いきり「薬でラリってます、フッフッフッフッ」と笑い続けた。

 判決で裁判長は起訴状の通り、1件の強盗致傷、1件の強盗殺人、2件の強盗を認定し、求刑通りの無期懲役を言い渡した。弁護側は竹井被告が逮捕前、精神科に通院していた事から責任能力は減退していたとも主張しており、「バスジャックして空港に行き、ハイジャックして機長を殺し、スカイツリーに突っ込む」という荒唐無稽なテロ行為の資金稼ぎだったと訴えていたが、これらは一蹴され、一連の犯行は生活費のためだったと認定されていた。

 竹井は裁判長の言い渡しをふんぞり返って聞いていたものの、最後に主文となる無期懲役を告げられると間髪入れず、両手を高く掲げて拍手。その両手を頭の後ろに組んだり、中指を立てて笑みを浮かべながら、検察官や被害者側を向くといった態度を見せた。そして閉廷後に叫んだ。

 退廷前には「悔しかったら死刑にしてみろ。殺人は麻薬よりセックスより気持ちいいぜぇ。はっはっはっは」などと、少し棒読み気味に毒づいてみせた。

「これでまた将来殺人ができるぜぇ~~。殺人は麻薬よりセックスよりも気持ちいいぜぇ~~。ハッハッハッハ」

“悪ぶってみた”という竹井に、突然殺害されたAさんの無念を思う。その後、判決を不服として控訴、上告したがいずれも棄却され2016年10月、無期懲役が確定している。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部

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