韓国でいまも燻る“有名俳優の自死”をめぐる火種 警察とユーチューバーに怒りの矛先が
何がイ・ソンギュンを追い詰めたのか
イ・ソンギュンの麻薬疑惑から彼が命を絶つまでの間に、果たしてなにがあったのだろうか? 最初の取り調べのときから、警察署前で待ち構えていた記者たちは、彼の有罪が決まったかのように質問をぶつけた。そして取り調べが終わるや否や、マスコミは彼の陳述内容の一部を報じた。警察は取り調べの内容を公開できないはずだが、なんらかの経緯でこれは守られなかったのだ。
3回目の取り調べの時には、記者たちと会わなくてすむよう、イ・ソンギュンは非公開召還を要請したが、警察は拒否したという。警察が「非公開出席はよくない」と伝えていたことも最近、明らかになった。有名人である彼が、市民としての基本的な権利まで剥奪されるような空気に晒されていたといえる。
違約金の存在も、彼を死に追い込んだ要因だといわれている。スキャンダルが報道されると、マスコミは彼の違約金問題について言及した。当時、イ・ソンギュンは多数のCMに出演しており、撮影を終えた映画が公開を控えてもいた。だが、疑惑が取り沙汰されると、契約中の広告はすべて白紙となり、出演映画は公開が先送りとなった。撮影を控えていたドラマも、他の俳優を代役として立てた。
違約金は200億ウォン(約22億円)以上になるという。世間が自分を信じてくれないうえに、よりどころとしていたはずの業界関係者にまでそっぽを向かれてしまったわけである。金銭問題が彼を圧迫したことは想像に難くない。実際、亡くなる前、所属事務所に対し違約金の支払いを詫びる旨のメモを残していた。
悪質なユーチューバー
悪質なユーチューバーの存在も忘れてはならない。
あるユーチューバーは、イ・ソンギュンが以前から麻薬中毒だったとか、スナックの従業員Kと不倫関係にあったなどと、真偽不確かな情報を無分別に配信した。イ・ソンギュンとKとの電話録音ファイルを入手したあるユーチューバーは、本人の同意や確認もないまま公開したりもした。警察の調査で麻薬が検出されなくても、ユーチューバーはふたりが電話をし、スナックでよく会っていたという点で不倫と決めつけ、「麻薬は使わなかったかもしれないが、不倫も問題」と問題をすり替え、イ・ソンギュンを非難し続けた。こうした論調にならうメディアもあった。一部のユーチューバーの金稼ぎに、イ・ソンギュンは利用されてしまった。
何より警察の捜査手法にも疑問の声があがっている。一般的に麻薬反応検査は、検査からさかのぼって6ヵ月以内に麻薬を服用した場合は陽性になる。イ・ソンギュンは、2度にわたる検査で陰性だった。この点で、Kが主張していた使用時期とは食い違いがある。にもかかわらず、警察は彼女の供述を基にイ・ソンギュンの取り調べを強行。KはビッグバンのメンバーG-DRAGONらも自身のスナックで麻薬を使用したと陳述したが、彼も数回にわたる体内麻薬成分検査で陰性となり、濡れ衣を晴らしている。Kは、イ・ソンギュンとG-DRAGONのほかにも、社会的な著名人を麻薬使用者として陳述したようだが、彼らに対してのメディアの報道はまだない。
ここにきて、一部のインターネットコミュニティでは「イ・ソンギュンの取り調べを行った警察と、彼の“麻薬疑惑”を広めたユーチューバーはひどい」という意見が出はじめている。
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