「七人の侍」で世界史を読み解く…古代ローマ史学者が書いたユニークな映画ガイド本

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ロシア革命を描く「ドクトル・ジバゴ」を選んだ理由

 もちろん本書は、古代ローマ史の解説ばかりではない。1930年代のシカゴを舞台にした詐欺師の物語「スティング」(ジョージ・ロイ・ヒル監督、1973)では、当時の世界恐慌、シカゴの経済状況が解説される。ラストの大勝負が競馬がらみなので、ここでも“本村ブシ”がさく裂する。

「今回の21本は、基本的に私の好みで選びましたが、1本だけ、編集者の推薦で入れた作品があります。中国映画『活きる』(チャン・イーモウ監督、1994)です。今回初めて見ましたが、素晴らしい作品でした。ある家族を中心に、1940年代の内戦から、1960年代の文化大革命までを描く物語で、中国本国では未公開だそうです」

 本書では、この映画を紹介しながら、民主主義、社会主義、双方の問題点を解説し、ドストエフスキーや魯迅の文学作品へと話題が広がっていく。

「また、21本のなかには、周囲から『入れなくてもよいのでは』と反対されかけた映画もありました」

 それが、「ドクトル・ジバゴ」(デビッド・リーン監督、1965)だった。ロシア革命を背景にした壮大なメロドラマである。

「もうソ連を中心とした社会主義の国は、ほとんどが消滅したので、特にいま50歳代以下のひとたちには、古い内容だと思われたようです。しかし、資本主義が行き詰まると、必ず社会主義的な考え方がよみがえるものなのです。現に、ロシアも帝国主義が行き詰まり、人類初の社会主義革命(ロシア革命)が起きました。歴史は繰り返すといわれますが、これからの世の中がどうなっていくかを見極める意味でも、『ドクトル・ジバゴ』はたいへん重要な映画です」

 本村教授が映画好きになったきっかけのひとつが、小学校4年で観た、「嵐を呼ぶ男」だ。ファンが高じて『裕次郎』なる本まで上梓したのは先述のとおりである。

「主演の石原裕次郎は、実にカッコいいお兄さんだなあと、憧れました。その後は、『OK牧場の決斗 』のようなアメリカの西部劇を観て、欧米に対する憧れを抱くようになりました。しかし基本的に、私が愛好するのは、娯楽映画です。以前、美術評論家の高階秀爾先生と、ある席で映画の話になったことがあります。どんな映画がお好きなのか聞いてみたら、『先日観た薬師丸ひろ子の映画が、とてもよかった』と言われて、なるほどなあと感心したことがあります。映画って、それでいいのではないでしょうか」

 本村教授は、2021年に『20の古典で読み解く世界史』(PHP研究所)を出している。これは文字通り、『オデュッセイア』から『カラマーゾフの兄弟』まで、内外の古典名作を紹介しながら世界史を解説する本だった。

「しかし、ドストエフスキーのような長大な古典文学を何度も読むことは、時間的にも体力的にもたいへんです。それが映画なら、2~3時間あれば十分楽しめて、勉強にもなる。ぜひ、いまの若い方々には、ここで紹介したような名作映画を観ていただきたいと思っています」

 本村教授は、この4月から、いよいよライフワークである「地中海世界の歴史」に関する本を、全8巻で刊行開始する(講談社選書メチエ)。

「それが終わったら、また、本書のような楽しい解説書を書きたいと思っています。ネタは山ほどありますので」

 今度は、何を素材にして「世界史」を読み解くのか、いまから楽しみである。

富樫鉄火(とがし・てっか)
昭和の香り漂う音楽ライター。吹奏楽、クラシックなどのほか、本、舞台、映画などエンタメ全般を執筆。東京佼成ウインドオーケストラ、シエナ・ウインド・オーケストラなどの解説も手がける。

デイリー新潮編集部

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