「回を重ねるごとに、観るつらさが増す」では視聴者も脱落する…永野芽郁「君が心をくれたから」に必要なもの

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初回から欲しかった救いのスパイス

 この純愛を成就させてあげたい! 視聴者にそう思わせるところまではいいんです。長崎が舞台のロマンティックな映像もいい雰囲気です。泣かされます。でも、涙はたぶん、たとえわずかでも救いとセットでないと、カタルシスにつながりません。不幸がてんこ盛りで救いのスパイスなしでは、観ていてつらくなるばかりです。

 かくいう私がそうです。回を重ねるごとに、観るつらさが増しています。永野芽郁のファンで、彼女があんまりかわいそうだから、少しでも幸せになるのを見届けてやろうと意地で観ていますが、脱落する人が多いだろうと想像します。

 事実、視聴率は第1話の7.2%が最高で、第2話5.8%、第3話5.6%、第4話5.4%、第5話5.3%と、一度も上昇することなく下がり続けています。やっぱり救いがないまま不幸が襲い続けるばかりでは、人はなかなかついていけません。しかも週はじめの月曜日だから、なおさらキツイ。がんばって観ている視聴者も、少しずつ耐えられずに脱落しているのではないでしょうか。

 貧すれば鈍するではありませんが、元気がないフジテレビの、視聴率が低迷気味な月9です。起死回生をねらって、泣かせようと不幸を盛りすぎてしまったのかもしれません。しかし、繰り返しになりますが、救いがあっての不幸。テレビ局に余裕がないと、そのことを見失うのかもしれません。

 ただ、第5話では、はじめてわずかな救いが感じられました。あの世からの案内人の日下に促され、雨は「五感がなくなっても私のことを好きでいて」といって、太陽の思いをやっと受け入れました。感情がなかった日下の態度にも、どこか情が感じられるようになってきました。雨の祖母の雪乃(余貴美子)がガンで余命いくばくもないことがわかったり、次は触覚が失われることが示されたりと、相変わらず不幸はてんこ盛りですが、わずかでも救いのスパイスをかけると、こうも味が変わるのか、と思わされます。

 でも、少し遅すぎたかもしれません。第6話以降、少しずつ救いの量が増えていったとしても、つらさに耐えられずに離れてしまった視聴者が戻るのかどうか。

 私はあざといほどの純愛は支持します。そして、わずかでも救いが得られたので、来週以降も観ることができそうですが、テレビ局の戦略としては、やはり初回から救いの香辛料を欠かしてはいけなかったのではないでしょうか。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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