藤井聡太八冠がタイトル20連覇 本人が「伝説上の方のイメージ」と語る大名人の棋風に似てきた
大山名人の手厚さ
これで藤井は、2020年夏の初タイトル(棋聖)奪取以来、タイトル戦20連覇。大山康晴十五世名人(1923〜1992)の記録を抜いた。
感想戦後の記者会見で、大山名人とはどのような存在かと問われた藤井は「私自身は大山先生とだいぶ(世代が)離れていて直接お会いしたことはないので、伝説上の方のイメージがある。奨励会時代に大山先生の棋譜を並べたことがある。相居飛車の将棋だったが、受けの手厚さはもちろん、当時から結構、先進的な将棋を指されていたのかなという印象がある。その棋譜を並べたのは、自分としては勉強になることだったと思っています」と答えた。
藤井の将棋は、特別な型がなく自在に応じる、「自然流」と呼ばれた中原誠十六世名人(76)に似ていると言われることがある。
1971年、その中原が無敵の巨人・大山を倒して新名人になった時の大騒ぎは筆者も記憶している。大山一強と言われた時代に若き中原が登場し、一躍、将棋が注目された。
藤井将棋との共通点
今対局で藤井の手厚く盤石な指し手を見て、中原よりもむしろ大山の将棋に似ていると感じた。例えば、大山は角が敵陣に成り込み、馬となり、さあ、これで攻めるのかと思ったら、その馬をさっと自陣に引いてしまう。相手が攻めあぐねているうちに、じわじわと攻めていくのも全盛期の「大山流」だ。
今回の藤井は、そんな将棋だった印象だ。大盤解説で戸辺七段は「馬は金銀3枚分の力があると言われて言います。これが自陣に引いているんですから」と話した。彼が「大山名人の将棋に似ているかな」と話したので膝を打った。この日の藤井将棋を戸辺七段は盛んに「手厚い」「隙のない差し回し」と評し、「藤井八冠は攻め合いにすら持ち込ませてくれない。すごい」と話し、感嘆しきりだった。
大山はある時、「対局中にいい手が見つかった時、『そんなはずはない、そんなうまい手があるはずがないんだ』と自分に言い聞かせて、そういう時こそ熟考した」と回顧している。相手が投了するまでは、どんなに優勢でも絶対に緩んだ手を指さないということだろう。「石橋を叩く」盤石さ、手厚く最後まで隙がない。大山はまさにそんな将棋だった。
トップ棋士ばかりとの対局を重ねるうちに、藤井は自然と大山将棋の要素を備えていったのだろう。若き藤井は、半世紀も前に覇を競い合った大山と中原という大棋士の持ち味を兼ね備えた「無敵の棋士」への道を驀進している。
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