TBS「不適切にもほどがある!」 なぜミュージカルが? クドカン5つのこだわりを解説
高校生の価値観の変化も描写
価値観の変化へのこだわりは徹底している。まず「頑張って」と誰かを応援することが今はパワハラになりかねないことを描写。男女が完全に同格・同権になったことも強調している。さらに大人の世界の価値観にとどまらず、高校生の考え方の変化まで描いている。
市郎の1人娘で高2の純子(河合優実・23)は、隙あらば中学生の向坂キヨシ(坂元愛登・14)と“にゃんにゃん”をしようとする。実情は別とし、あのころの女子高生が今より性についてオープンに語っていたのは確かだ。
おニャン子クラブが「セーラー服を脱がさないで」で「友達より早く エッチをしたいけど――」と歌ったのは85年。この歌は今、テレビでは流せないだろう。
一方、純子が憧れるムッチ先輩こと秋津睦実(磯村勇斗・31)はケンカに明け暮れる日々。今の高校生は滅多なことではケンカなどしないだろうが、当時はケンカ三昧の高校生が珍しくなかった。
だから、「週刊ヤングマガジン」(講談社)に83年から連載された漫画「ビー・バップ・ハイスクール」が爆発的にヒットした。あのころの高校生はムッチ先輩と同じく、割とどうでもいいことでケンカをしていた。
クドカン色が鮮明な構成
法律の改正による社会の変化まで表している。第1回。市郎が純子のために、「セイラーズ」のトレーナーを東京・錦糸町で買ったところ、それは「セイヤーズ」。コピー商品だった。80年代を知る方ならご記憶の通り、当時はコピー商品が氾濫していた。
それが減ったのは90年に商標法が改正されたから。「セイヤーズ」のエピソードはコピー商品が事実上ほったらかしになっていたことも表していた。このドラマの時代を再現しようとする努力は並大抵ではない。これが2つ目の面白い理由だ。ちなみに86年当時の「セイラーズ」の店舗は東京・原宿にあった。
構成にはクドカン色が鮮明に表れている。これが3つ目の面白い理由。例えば第1回だ。市郎は「すきゃんだる」で居合わせたEBSテレビのバラエティ番組制作者・犬島渚(仲里依紗・34)のビールを勝手に飲んでしまった。渚はブチ切れたが、ちょっと怒りすぎている気がした。
怒りの背景が分かったのは第2回。渚は働き方改革に翻弄され、育児に追われていた。追い詰められていたから、一杯のビールを楽しみにしていた。
このエピソードでクドカンは理由の描写を後まわしにした。第2回で種明かしを行った。倒置法だ。クドカンのファンならピンと来たはず。倒置法は「木更津キャッツアイ」(02年)で多用したクドカンの得意技である。
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