全話イッキ観するほどとりこになった「PORTAL-X」 伊藤峻太が描く現実と地続きの虚構に「頭の中はどうなってんの!」と叫ぶ
この人の頭の中をのぞいてみたい。映像作家で映画監督、脚本も書く伊藤峻太だ。「シンギュラリTV2043」(BSフジ・2020年)では、アンドロイドと人間の共生で生じるジレンマと繊細な摩擦を描いた。完璧なロジックで架空の事象を描く「ザ・モキュメンタリーズ~カメラがとらえた架空世界~」(WOWOW・2021年)も、もんどりうつほど面白かった。現実社会と地続きで描かれる、緻密な虚構の世界。彼の作るモキュメンタリーにすっかり魅了されて、とりこになっちゃった。そして、最新作が「PORTAL-X~ドアの向こうの観察記録~」。
1973年に突如発見された異次元への扉、それが「ポータル」。廃墟などにある何の変哲もない扉を開けると、その先には別の歴史をたどった並行世界が広がっているという。この50年で32のポータルが発見され、内部観察が行われてきた。閉鎖されたポータルもあれば、厳重警戒とされる危険なポータルもある。調査のために、リポーターとシューターが短期滞在で取材に送り込まれる。各ポータルの失敗を学び、教訓として今の世界に役立てるための番組制作が目的だ。リポーター・カイフを演じるのは柄本時生、シューター・ルナを演じるのが伊藤万理華。
ドキュメンタリー番組のテイで奇妙な並行世界が紹介されていくのだが、どのポータルも実に興味深い。
食糧難が進んだポータル5では、高栄養価で結実が速い植物「ハイベジ」が問題に。全世界がこぞって栽培したものの、栄養価は急激に低下。しかも一度栽培した畑では他の作物が育たず。政府が栽培を推進したいわば「侵略植物」に翻弄された農家(岡本篤)の嘆きが映し出される。逆に政府を信用しなかった農家(瑠美子)は巨大ビニールハウスでミニトマトなどを栽培。1粒4500円と超高値で取引されるため、武装警備員をつけるほど。奇妙な世界だが、今の延長線上にある問題。自給率が低い日本がいずれ必ず抱える問題だ。
また、冷凍保存した故人の脳をデジタル技術でよみがえらせたのはポータル19。45年前、最終話を描かずに亡くなった漫画家(瓜生和成)は、IT企業と出版社によって勝手に復活させられ、戸惑いを隠せない。技術革新の速度に、人権意識と倫理観が後れを取る構図。切なさと物悲しさとおぞましさが。
あまりに面白過ぎて手が止められず、WOWOWオンデマンドで全話一気観しちゃった。この他にも、地底人との交流が進んだポータル14、超少子化で子供がほぼいないポータル11、運勢を数値化するデバイスに全世界が狂わされたポータル7などがリポートされる。
各ポータルの設定にはリアリティーがあり(役者の力も大きい)、すべて自分の足元とつながる感覚が。これぞ虚実皮膜。最近のドラマはSFかメシか復讐に頼りがち。これほどに説得力と完成度の高い虚構は皆無だ。
第7話と最終話では、カイフとルナに悲劇が訪れる。いや、悲劇ではなく希望か。虚構の世界が見事につながる快感。思わず叫ぶ。「頭の中はどうなってんの!」と。