メッツ移籍の藤浪晋太郎(29)に忍び寄る阪神時代の「悪夢」 制球難ではない「伊良部」も「松井稼」も屈した“難敵”とは
大谷を「臆病者」呼ばわり
藤浪は17年4月を最後に、実に1450日ぶりに勝ち投手になる21年4月まで、甲子園での白星に見放された。この時のお立ち台では「今まで甲子園ってヤジも多くて投げにくいとか、甲子園で投げるの嫌だなって思った日も、すごいあったんです」とホームグラウンドで受けた“圧”に、本音を吐露している。
「マスコミの取材攻勢も球界で阪神が一番でしょ。ファンからは罵声を浴び、その試合後に傷口に塩を塗られるように記者から質問を受ける。翌日には評論家も加わって詳細に敗因を分析される。これじゃ、直るもの(制球難)も直らないでしょ。プレッシャーというものは限られた選手しか感じられないし、周囲の期待の大きさの裏返しでしょうが、もっと伸び伸びプレーできる球団だったら、あれだけ不振は長引かなかったかもしれませんね」(同球団関係者)
そして今季、まさに阪神時代と重なる環境で投げることになる。ふがいないプレーには容赦なくブーイングやヤジを飛ばすファンと、大谷が17年オフに日本ハムからポスティングシステムでメジャー移籍を目指した際に、ニューヨークの球団を候補から外したと知ると「チキン(臆病者)」呼ばわりした手練れの記者が手ぐすね引いている。
藤浪は“低年俸”で標的回避?
伊良部がヤンキース時代、自身にブーイングを浴びせたスタンドに向かって、つばを吐いたことはあまりに有名な話だ。記者を「金魚のふん」と表現し、挨拶した記者の名刺を破り捨て、ペンを折ったこともよく知られている。こうしたファン、メディアとの不幸な関係は自らを追い込むことになった。
松井稼もニューヨークの洗礼を受けた一人だ。イチロー(元マリナーズ)と松井秀喜(元ヤンキース)を足して2で割ったとの評価で、鳴り物入りで日本人初の内野手としてメッツ入りしたものの打てず、守れずで、ファンとメディアの格好のターゲットになった。プレーのたびに本拠地ファンからブーイングを受ける日々は、まさに「地獄」だった。
長年、MLBで活動する米大手マネジメント会社の代理人は当時をこう述懐する。
「2人ともニューヨークでのプレーを熱望していましたが、水が合いませんでした。年俸が高く、地元の期待が大きかった分、落差が激しく、それがそのまま批判につながっていました」
一方で彼らと藤浪との相違点を挙げる。
「藤浪は22年のメジャーの平均年俸(422万ドル)にも届いていません。期待値は伊良部さんや松井さんとは比較できません。ほぼノーリスクでハイリターンを望める、球団にとっては悪くない投資だと思います。本人に不用意な言動などがない限り、メディアの標的にはなりづらいとは思います」
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