袴田事件再審 法廷で公開された生々しい“恫喝取り調べ”音声の中身 肝心の「自白の瞬間」は無い謎
「胸を張って聞いていた」とひで子さん
会見でひで子さんは「ひと山もふた山も越した雰囲気。今日は素晴らしかった。弁護士さんの苦労が報われる。大変な資料を読み込んでくれて本当にありがとう。胸を張って聞いていました。勝負は見えております。ありがとうございました。2日続きの法廷も疲れなかった。午前中は早く過ぎたように感じた。皆さんの反論がよかった、素晴らしかった」といつもになく少し興奮気味に話した。
法廷で初めて聞いたという取り調べの音声については「巖がぼそぼそっと言っているのは分かったけど、言葉は聞き取りにくかった。巖は多くを語らない。泣き言は言わない。私たち家族にも(取り調べのことは)言わなかった。後で書かれたもの(巖さんが記したもの)でひどい取り調べのことは知りましたが、今日は刑事の調べ方をまざまざと感じて、こんなひどい目に遭っていたんだと改めて思った」などと話した。
記者に感慨を再度聞かれると「巖が苦労したことはわかっているけど、可哀そうだどうのこうのよりも(再審開始決定を受けて)14年の3月に巖が出てきた(釈放された)ことが大きい。巖を助けていただいたと思っている」などと力を込めた。
ひで子さんは「今まで(の裁判)はちょっと眠くもなったけど……」などと笑わせた。どんな時にも場を明るくすることを忘れない女性である。
熱を帯びる弁護団
歴史的な再審無罪があと一歩に迫り、会見では弁護士たちも気合が入っていた。
白山聖浩弁護士は「初めのうちは『俺じゃない』と元気に話していた袴田さんが次第に弱々しくなる様子が録音でよくわかり、悲しくなる」と話した。
5点の衣類の血痕の色調変化を中心に調べてきた間光洋弁護士は「最高裁が差し戻したのは『捏造が疑われる』としてのこと。さらに、14年の静岡地裁に続き昨年の東京高裁も、捜査機関の捏造を前提にした決定を出している。これが基本」と強調した。
角替清美弁護士は「この再審が意味のあるものになるには、差し戻し審の繰り返しでは駄目なのです。記者の方は検察の言い分と両論併記のような書き方をしないでほしい」と注文した。村崎修弁護士は「証拠が一つもないから捏造したのです。こんなわかりやすい話はない。子供でもわかる」と話した。
報道によると、この日、静岡地検の奥田洋平次席検事は「自白で立証するものではなく、客観的に認められる間接事実を積み上げて立証すべきと判断した」とコメントしている。これまで「自白した」を金科玉条にしてきた捜査当局だったが、なんとも含みのある言葉だ。
[3/5ページ]