袴田事件再審 法廷で公開された生々しい“恫喝取り調べ”音声の中身 肝心の「自白の瞬間」は無い謎

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自白の音声は無し

 9月6日、巖さんは松本久次郎警部の前で涙を流しながら「専務ら4人を殺したのは私です。申し訳ありません」と自白したとされている。

 田中弁護士は「この日の録音テープは10時間分もあるのに、肝心な自白の部分だけ録音がないんですよ。調書では巖さんが『岩本(広夫・警部補)さん、これまで迷惑をかけて申し訳ない』と謝罪し、『捜査官に諄々(じゅんじゅん)と話した』ことになっていますが、その音声はない」と繰り返した。

 テープに記録されているのは「自白」の前後ばかりで、そのほとんどが捜査官の言葉である。自白の瞬間の音声が存在するなら検察は喜んで開示するはずで、存在しないので開示できないと考えるのが当然だろう。

単独犯はありえない

 会見で事務局長の小川秀世弁護士は「巖さんの単独犯などありえず、怨恨などが原因の暴力団関係か何かの複数犯」と見ており、「警察は真犯人を逃がすために袴田さんを犯人に仕立てた。犯罪ですよ」と法廷での主張を振り返った。

 さらに小川弁護士は「気分が悪くなる傍聴者が出るなど混乱を招く」という理由で裁判での公開を止められたという犯行現場の遺体の写真を公開した。強調したのは遺体の写真に縄のようなものが写っていることだ。「(被害に遭った)家族は縛られていたはず。複数犯で縛って刺した。これは単独犯では到底できない」と強調した。

 小川弁護士の話は、事件の翌年の1967年8月31日、巖さんが勤めるこがね味噌の味噌タンクから発見され、犯行時の着衣とされた5点の衣類のズボンに及んだ。このズボンの「とも布(ズボンを買ったときにサイズ調整で余る端切れ)」が、巖さんの実家のタンスの中から見つかったことで、味噌タンクから見つかったズボンが巖さんの所有物だとされた。

「捜査官がタンスからとも布を見つけたとしている。ともさん(巖さんの母)はタンスにそんなものが入っていた記憶はないと言っていました。捜査員がとも布を持って巖さんの実家にやってきて、そこで見つけたように装ったのではないか。そもそも、とも布なら2枚あるはずで、見つかったのが1枚というのも不自然」(小川弁護士)

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