常識の修正を拒否した松本人志、ダウンタウンに批判的だった横山やすし…「天才」2人の歩みは今になって重なる
時代に求められた2人
やすしさんも松本も「天才」と称される共通点があるが、芸風は全く違った。70年代から80年代半ばまで漫才界の頂点にいたやすしさんと相方・西川きよし(77)の掛け合いは、比較的オーソドックスな話芸を磨き抜いたものだった。
一方、ダウンタウンはまるで友人同士によるやや過激な雑談を芸に昇化させたように映った。やすしさんには不快だったが、観る側には新鮮であり、ダウンタウンの魅力だった。
2人は時代に求められたのである。お笑い評論の権威である作家の小林信彦氏(91)らが論じているが、人が何によって笑うかは時代によって変わる。求めるお笑い芸人も移り変わる。笑うことのベースにある世間の共通認識、社会通念が変動するためだ。
バブル後期のお祭り状態の中、若い2人の刺激的な芸は時代に同調した。過去から現在に至るまで、売れっ子お笑い芸人は例外なく時代と合うから人気者になる。一方で、やがては時代と合わなくなる。お笑い界はその繰り返しだ。
松本色を出すほど松本は嫌われた
ダウンタウンは東京進出の当初、誰彼となく激しく突っ込む浜田が憎まれ役を担い、松本のほうは嫌われていなかった。松本は類い稀なる反射神経で奇想天外なボケを放つのが役割だったから、憎まれにくかった。しかし、やがて逆になる。2人の立場はいつから逆転したのか?
放送作家でコラムニストの町山広美氏が「松本人志には『尊大』『女性蔑視』という印象を持つ女性が少なくないようです」と書いたのは、信濃毎日新聞の2002年5月22日付。当時の一般的な見方だったと捉えていい。この時点で憎まれ役は松本に変わっていた。
松本が憎まれ役になったのは、おそらく91年以降。この年、松本が企画した日本テレビ「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」が、高視聴率を受け、放送時間帯が水曜の深夜1時台から日曜午後10時55分(現在は同午後11時25分)に移動した。松本色が満載された番組である。
やはり松本イズムが詰まっていたフジテレビ「ダウンタウンのごっつええ感じ」も同じ91年から始まった。松本は自分の個性を存分に見せられるようになった。
それは松本の人気が高かったから実現したことだが、松本色を強く出すほど、「合わない」と思う視聴者は増加する。松本に限らず、露出が増えるほどアンチは増える。誰もが例外なく好きなお笑い芸人など存在しないのだから、やむを得ない。
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