常識の修正を拒否した松本人志、ダウンタウンに批判的だった横山やすし…「天才」2人の歩みは今になって重なる
ダウンタウンの松本人志(60)が性加害疑惑報道の法廷闘争のため、休業に入った。約40年間、お笑い界の第一線にいた男が消えた。いつ戻って来るのかも分からない。松本は日本人にとって、いかなる存在だったのか? 考えてみたい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
【写真を見る】カツラ姿で熱演する松本…89年当時のダウンタウン
出発点は悪童キャラ
筆者が松本を初めて間近で観たのは1988年。番組取材で訪れた日本テレビのスタジオだった。そこではダウンタウンと故・渡辺徹さんがMCを務めていたバラエティ「Boy Meets Girl 恋々!!ときめき倶楽部」の収録が行われていた。
印象的だったのはスタジオの隅での1コマ。ゲストに招かれたベテランタレントのマネージャーがスタッフに対し、渋い表情で苦言を呈していた。「あれは困りますよ」。浜田雅功(60)がベテランタレントに向かって「おまえなぁ」と言い、何度も頭を小突いていたからである。
頭を小突く芸は古くからあった。もっとも、ほかのタレントを小突いたのは浜田が初めてだろう。しかも先輩だ。浜田は敬語も使わない。誰であろうが、遠慮会釈なし。松本の言葉使いも丁寧とは言えなかった。この媚びない姿勢が、新鮮でもあり、ダウンタウンがウケた理由の1つである。
一方でマネージャーが渋面になったのも無理はない。82年にデビューしたダウンタウンが東京に本格進出したのはこの収録の翌年(89年)。悪童のような2人のキャラクターや芸風は関西以外では認知されていなかった。
手厳しかった横山やすし
視聴者の中にも傍若無人だった2人に不快感を抱いた人はいたはず。また、故・横山やすしさんのように2人の芸風や態度をずっと認めなかった先輩芸人もいる。
「芸人には礼儀が必要や。あいさつぐらいせい!」(95年12月の発言)
やすしさんも決して礼儀正しい人とは言えなかったが、ダウンタウンには手厳しかった。漫才も酷評し続けた。
ダウンタウンが「ライト兄弟」と名乗っていた82年、やすしさんは自分が司会を務めていたテレビ朝日「ザ・テレビ演芸」 に登場した2人に対し、「笑いの中には良質なものと悪質な笑いがある。あんたらは悪質な笑いや」と、辛辣な言葉を浴びせた。
この時の2人のネタが、やすしさんには気に入らなかった。家庭内暴力をテーマにしたもので、「おとんに腹立ったから、藁人形作ってクギ打ったら、ほんまに苦しんどった」などといった過激な内容だったからだ。それまでの漫才のセオリーでは考えられなかった。
[1/4ページ]