漫画原作ドラマは誰のためのもの? 「セクシー田中さん」“原作改変”騒動で表面化した実写化作品の難しさ

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万人にとっての「ハッピーエンド」は無いからこそ……行動で示すべき「原作リスペクト」

 芦原先生も「漫画で敢えてセオリーを外して描いた展開を、よくある王道の展開に」されていることが度々あったと記していた。だからラストシーンはあれでよかったのだろう。旅立つ相手を追いかけ空港でキスを交わすとか、ひと昔前のドラマの「王道」演出は無かった。先生が苦心して作品を守り抜いた結果だと、改めて得心がいったものだ。

 もし視聴者に「理想のラスト」を聞けば、さまざまな答えが返ってくるだろう。原作通りの世界が見たいファンもいるし、原作を知らない視聴者の中には、恋愛要素にときめく人もいる。原作は好きでもは嫌いな俳優が主役なら見ないという声もある。「ミステリ~」だって、久能役が菅田将暉さんと発表された時は賛否両論があった。実は各局争奪戦だったドラマ化の権利をフジテレビが手にしたのは、菅田さんの起用あってこそだったと後にプロデューサーが明かしているのだが。

 要するに万人にとっての「ハッピーエンド」など無いのだ。だからこそ実写化の際は、原作サイドとの約束のもとというのが大前提だが、誰のために作りたいのか、誰と一緒に作りたいのか、覚悟と優先順位を決めることが大事なのだろう。「原作リスペクト」は当然だが、口で言うだけでは意味がない。合意条件に沿ったガイドラインを関係者全員に周知したり、外れた場合の措置も明文化しておくなど、行動で示して初めて伝わるものではないだろうか。

 脚本家だって、原作に忠実に仕上げるのが得意なタイプもいれば、テレビ局の意向通りに“改変”するのがうまいタイプもいる。どちらがいい悪いではなく、設定条件との適性で決めればいいだけのこと。その部分での見通しの悪さとミスマッチは、今回ならずとも現場や原作者の士気を奪うのは確かである。

「セクシー田中さん」のヒロイン・朱里による「コンビニのスイーツがおいしかった。眉がキレイに描けた。一つ一つは些細だけど、たくさん集めると生きる理由になる」というセリフがある。今はただ原作ファンとして芦原先生に伝えたい。「セクシー田中さん」という漫画を読むことも、私にとって生きる理由を形作るひとつでしたと。心からご冥福をお祈りいたします。

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■相談窓口

・日本いのちの電話連盟
電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)
https://www.inochinodenwa.org/

・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)
電話 0120-279-338(24時間対応。岩手県・宮城県・福島県からは末尾が226)
https://www.since2011.net/yorisoi/

・厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」やSNS相談
電話0570-064-556(対応時間は自治体により異なる)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_info.html

・いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)
https://jscp.or.jp/soudan/index.html

冨士海ネコ(ライター)

デイリー新潮編集部

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