漫画原作ドラマは誰のためのもの? 「セクシー田中さん」“原作改変”騒動で表面化した実写化作品の難しさ

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実写化ブームの中で…「型破り」な作品のはずが「型通り」の語り口になってしまう難しさ

 近年ヒットした漫画原作のドラマというと、普通の男女の恋愛模様より、その風潮になじめない人々を描いた作品が目立った。「凪のお暇」「きのう何食べた?」(2019)、「私の家政夫ナギサさん」(2020)など。「セクシー田中さん」しかり、女性同士の連帯を描くシスターフッドも流行のテーマだ。「その女、ジルバ」(2021)や「作りたい女と食べたい女」(2022)、昨年のNHK「大奥」にもその匂いを感じる。

 こうした風潮の先鞭をつけたのが、2016年の「逃げるは恥だが役に立つ」ではないか。“プロの独身”男性と、“小賢しい”無職女性のラブコメディー。文字にすると身もふたもないが、星野源さんと新垣結衣さんを始めとする好感度の高いキャスト陣と、野木亜紀子さんによる見事な脚本もあって、平均視聴率14.5%を記録。さらに主演カップルが実生活でも結婚という展開には日本中が沸いた。

 同作では各キャラのセリフも話題に。ヒロイン・みくりが言う「やりがい搾取」や、みくりの伯母・百合ちゃんによる「自分に呪いをかけないで」は大きな反響を呼んだ。性別役割分業観や女性のエイジズムに疑問や息苦しさを感じる人が、それだけ多かったということだろう。

「セクシー田中さん」の脚本家による2022年の月9「ミステリと言う勿れ」も、同じ流れをくんでいる。良質な謎解きの要素はありつつ、主人公・久能整のセリフには、原作発表時から称賛と共感が集まっていた。家事や育児を「手伝う」と言う男性刑事への一言や、日本のいじめ問題の不条理さの指摘。警察という男社会になじめずにいた若い女性刑事にかけた、存在意義を肯定する「違う生き物でいてください」という言葉。

 だからこそその女性刑事が、主人公にほのかな思いを抱いているような“改変”がなされたことには原作ファンから怒りの声が上がった。

 だって月9だし、ちょっとくらい恋愛要素が無いと盛り上がらないし。あくまでも推論だが、テレビが元気だった頃のヒットメーカーたちほど、かつての成功法則を捨てられないのではないだろうか。古い価値観に一石を投じる型破りな物語を、型通りに描くことしかできない制作陣との意識の隔たりは、思った以上に大きかったようだ。

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