「賃上げ」も「リスキリング」も政府主導 岸田流“経済復活策”で生活は豊かになるのか

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「解雇促進法案」

 では日本はこの三位一体の改革が本当にできるのか。転職して給与が上がると聞くと良い話に思えるが、スキルアップできない人、できるだけ安楽に過ごしたい人からすると、厳しい時代と言える。「リ・スキリング」し続けないとポジションを守ることができず、失業につながりかねないからだ。企業からすれば、優秀な人に高い給与を払うには、働かない人の給与を下げるか、そういう人をクビにしていくしかない。誰でも年齢で給与が上がり、クビになることがまずない「年功序列・終身雇用」は成り立たない。

 アベノミクスの当初、民間企業経営者から労働法制を変えて「解雇要件を明確化し金銭解雇を認めよ」という議論が出た。これもスキルアップしない人材を解雇できるようにしないと、企業全体の生産性は上がらず、優秀な人材の給与も増えないという考えが背景にあった。「解雇促進法案だ」という批判を受けて、当時の安倍首相は早々に引っ込めざるを得なくなった。岸田首相の三位一体の労働市場改革には、そうした考え方が受け継がれている。

 もともと岸田首相は就任時に「新自由主義的政策は取らない」と言い、アベノミクスで行ってきた市場原理に任せるような経済政策を否定した。金融資産をたくさん持つ富裕層に課税強化するなど金持ちに厳しい姿勢で臨むのが「新しい資本主義」かと思われたが、今や良く分からなくなっている。

政府が主導すべきことなのか

 確かなのは、政府が市場をコントロールしようとしていることだ。せっせとおカネをばらまくことで電気代やガス代を抑え、物価上昇率の統計数字を低く抑えようとしている。それを上回る賃上げを企業に要請する代わりに、企業への減税策などを用意する。リ・スキリングも企業に代わって政府が人材教育費などを出すという。何でも「政府主導」でやろうというわけだ。

 労働移動もどうやら政府主導で行おうとしているようだ。転職など自己都合で会社を辞める際に退職金が減らされる慣行を変えるなど制度や規制を変えるだけでなく、転職を支援する補助金なども今後拡充されていく模様だ。

 だが、そもそも、賃上げやリ・スキリングは政府が行う仕事なのか。企業経営者が自ら考えて実施していくことではないのか。

 当初、岸田首相はジョブ型雇用(職務給)の促進を企業に求めるとしていた。ところが財界からの反発を受けて、「個々の企業の実態に応じた」という前置きが付いた。伝統的企業の多くは、若年層を安く使える日本型雇用にまだまだ未練があるということだろう。また、ジョブ型を浸透させるには経理や営業、品質管理といった「専門職」の業務が「標準化」されている必要がある。同じ業界でも通じないその会社独特の業務のやり方が残っていると、転職者がすぐに活躍できない。転職されないために「独特のルール」などをあえて設けている会社もあるという。

 こうした企業側の発想を大きく変えなければ人材の流動化は起こらない。シンガポール大学で教壇に立つ元参議委員議員の田村耕太郎氏は「シンガポールでは、社員が転職するのを前提にそれでも社員教育にお金を投じている。人材のスキルがアップすれば、それだけシンガポール全体の人材力が向上すると考えているからだ」と語る。国民の間でも転職して給与を上げるのが当たり前になっている。

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